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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・12

   

 沙良が生きている。という実感に俺は打ち震えるほどの喜びが込み上げていた。

 騒然となる交差点を俺は沙良が生きていることで他人事になっていた。自分でも驚くほどに。

 翌日のニュースで悲劇を起こした白咲のほかに名前があがった。

 俺は愕然となった。沙良が生き残ったというのに、まさかその代わりの犠牲者が…
 
 

 二人にとって大事な朝だった。12月25日はテーブルの上に置かれた一枚の用紙に互いが見据えていたが、俺から切り出すはずがテレビのニュースでお預けになってしまった。

 もっと大変なことが起きたからだ。

 

 スクランブル交差点で六人の犠牲者と犯人が死ぬことになっている。人数が欠けることはない。よって沙良の代わりに誰かが射殺されることになる。沙良が生きているのだからその身代わりが新たな悲しみの連鎖を生みだすだろう。

「可哀そうに」

 悲劇のスクランブル交差点は騒然となっていた。

 あれだけ苦労しての幸福。まさか今の自分が他人事のようにニュースを聴いていることに驚いた。

 ニュースで射殺された名前が報道された。やはり死んだのは自殺した白咲だ。あとは見覚えのあるアンチズの五名の男だった。そして最後の一人は沙良の身代わりとなった犠牲者、本当の意味での犠牲者だ。

 可哀想に。彼女へのサプライズをテーブルの上に置いたまま待っていた。彼女は身だしなみをすませようとしていた。テレビ画面から最後のその名をアナウンサーが伝える。

 俺はその名を聞いて愕然となった。

時城ときしろ いざねいざねさん、十八歳、都内に通う専門学校一年生が射殺されました」

 沙良もちょうど俺の背後でスリッパを小さく足音をさせてアナウンサーが読み上げた最後の犠牲者の名前を聞いていた。

 俺は背後で気配に気づいていた。沙良はその名を確かめるため俺の後頭部を揺するように言葉を発した。

「妹さんじゃないの?」沙良は目を見開き驚嘆している。

 俺は口が開いたまま閉じなかった。目を見開き、失意と喪失によって俺の精神を削り取っていた。疑うとしたら自らの聴覚だった。しかしそれはたしかに間違いないことだった。

 流れ弾で射殺された沙良の身代わりに妹のいざねが射殺された。

 神は無情なり。関係ない者を選んでくれればいいのに。都内の人口は約千三百万人いる。今宵は都内近郊からも押し寄せ増加しているだろう。埼玉、神奈川、千葉、もしかしたら遠方からも訪れている。それなのになぜ沙良の代わりが妹の命になるんだ。

 ちらっと脳裏に先生の顔が浮かんだ。

 白咲が悪ではない。

 運命を変えたというのに神のいたずらが俺にとっての同等の悲劇を繰り返そうとしている。

「神も仏もない…」

 

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