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伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 35

   

「マダガスカルの奇跡」奪取に向け、吾輩は部下たちに最後の指示を出した。

 打ち合わせの後、百万ドルが入ったクレジットカードを配った。
 ただならぬ気配を察した部下は不審の声を上げた。

 

 

大阪港

 

 光の具合や空気の感触からして、朝の8時ごろと思われる。吾輩は上下一車線の道路の中央分離帯にいて、コンクリート製の支柱らしき物の残骸にもたれて座り込んでいた。

 左右の肉眼は問題なく良く見えていた。夢の中にいるのだから、それは当然なのかもしれない。正面は鉄道線路が横切っており、吾輩の両側を走る車道は、線路の薄暗い高架下に吸い込まれ、反対側に抜けている。

 見上げれば、遮るもののない空を雲が足早に流れている。

 吾輩が背中を接する高さ5メートルほどの支柱の残骸は、かつて何を支えていたのやら。この頭上には、かつて高速道路でも通っていたのか。雲を眺めながらあれこれ想像した。建設現場で働いた人の人生、支柱に支えられていた構造物が消えてなくなる瞬間。

 そんなことを思っている間、銀色の旅客機が視界を何回か横切った。

 視線を下に戻し、右斜め前へ。車道の向かい側には石畳の歩道があり、高架を支えるタイル張りの壁に、エプロンを着けた魅力的な娘が寄り掛かって立っている。吾輩はその娘が近くにある喫茶店のウェイトレスであることを、ごく当たり前のように知っていた。

 栗色の髪を束ねたその娘は、あたりを見回しながら時折吾輩に笑顔を向ける。彼女が勤める喫茶店は、ちょうど吾輩を挟んで鉄道高架の反対側にある。つまり吾輩の背中から10メートルほど、彼女の立つ位置からだと直線距離で16、7メートル離れた場所にその店はあるのだが、店外でもある程度の距離まではメニューを運んでくれるらしい。つまり彼女が現在立っている地点が、店のサービス圏あるいは縄張りと言ってもよいのだろう。

 吾輩はその娘を手招きした。

 車道はさほど交通量は多くなかったものの、明らかに第二次大戦後のボディを持つさまざまな色の透明な自動車が亡霊のように行き交っている。不注意に飛び出すのは危険だと思ったが、吾輩がさほど懸念しなかった通り、喫茶店の娘は難なく車道を横切り、座っている吾輩の前まで来た。そして腰を曲げて顔を寄せてきた。

 吾輩は背後に首をねじって、支柱のコンクリートが肘ぐらいの高さで10センチ四方ほど抉られたように欠けている部分を指差し、「ここにコーヒーを持ってきてくれないか」と頼んだ。その箇所を見た娘は笑顔で首を横に振り、無理だと答えた。

 「店から遠いのではなく、指定されたところは傾斜しているので椀を置けない」──彼女はそう釈明した。その通りだと思って、店内でコーヒーを飲むために吾輩が腰を上げた拍子に、手元からスイートデニッシュと小豆入りのペイストリーが路上に落ちた。

 恐らくスイートデニッシュ等は朝食用だったのだが、食欲がなかった吾輩はそれを持ったまま座り込んでいたらしい。それらの食物は中央分離帯のすぐ横にあってタイヤにひしがれることもなく、そのまま朽ちるか鳥の餌になるのだろう。吾輩は喫茶店に向かった。

 喫茶店の窓は見えていたが、夢はそこで途切れた。
 

 

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