「恵慈家は古くは日本武尊の時代からあるとも言われている。そして、先祖は龍神だと。代々引き継ぐ不思議な力を隠すため、世に忍ぶ形となった。忍びと書いて忍びにあらず、闇に忍ぶもの、それが恵慈家だ」
時代伝奇ストーリー!
ふと厠に行きたいと思い、立ち上がろうとして、自分が布団の中で縛られている事に気付いた。服装も、どうやら襦袢だけのよう。妙な冷や汗に、益々厠が近くなる。
「誰か! おらんか?」
とりあえず、非常事態なので声を上げてみる。何度か上げると、青い顔したお蝶が現れた。
「すまんが、厠に行きたくて行きたくてかなり危ないので解いてくれないか?」
事情は後で聞くことにした。今は下の処理が先。
お蝶は無言で足の縄を外すと、蜃を起き上がらせて厠へと案内した。
「手も外して貰えないかな? 逃げたり暴れたりしないから」
もじもじしながら言うが、お蝶は目を逸らした。
「約束するから、必ず」
ようやく願いを聞いてもらえ、ぎりぎりで済ませると蜃はお蝶に両手を差し出した。
「約束したからな。俺が縛られてないと、お蝶さんが困るのだろう?」
お蝶はその手を縛りながら、堪らず泣き崩れた。
「事情を、聞かせて貰えないかな? あと、ここは何処なのだ?」
すると、お蝶の後から白い男が現れた。泰親だった。
「蜃様、ようやくお目覚めで。蜃様がお蝶に投げた質問、私が代わりにご説明致しましょう。それと、父上とお祖母様がお待ちですよ」
蜃は、まだ晴明の存在も富子の存在も知らない。育ての父までもが、攫われたと思った。
「お前が、お蝶さんを? 何が目的なのだ」
蜃の怒声に、泰親はくすくす笑った。
「なんと、ご立派に。跡取りに相応しい」
「は?」
蜃は、泰親の言う意味がわからないので、その場は彼に従って歩いた。