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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・13

   

 喪に服していると、そこに低く渋い年輩男性が現れた。

「羽場戸先生」

 妹の死をわざわざ面識もないのに訪ねてきてくれたようだ。

 だが、俺の持っている手にじっと視線はとどまっていた。

 そして先生の怒涛な詰問が俺を撃ち抜いていった。どうやらすべて知っているようだった。

 過去や過去での未来と行き来していることを先生は把握していた。

 上着から俺が持っているのとは別の球体を取りだした。

 恩師が生きているのがなぜか、わかった気がする。

 羽場戸先生がタイムトラベルの理論や理屈を聞かされた。

 そして、俺が先生を手にかける必要もなくなったことになる。

 

 実家に帰った俺は喪服に着替え、沈痛な雰囲気が偲ぶ会に多くの知人や友人が年末にもかかわらず顔をだしていた。

 リビングに集まる親戚やいざねの友人たちが涙を流しているのを尻目にみて、俺は離れて陽の差す縁側に座って物思いに耽っていた。

 紙一重で判断を誤るとスクランブル交差点で射殺されるのは沙良か妹のどちらかになるってこと、そして、どちらも失った鎮痛な思いは拭えない。

 過去をかえなければ俺は不幸のままだ。恋人と家族、どちらも護りたい。そうでなければ俺が沙良と築く家族を護れないだろ。

 球体を手にしたときだった。

「こんにちは…」

 低く渋い声が俺の年輩らしい男性が声をかけてきた。

「あっ」すぐにわかった。さすがの明るく飛びぬけた人でも、場をわきまえるようだ。

 妹の葬儀にわざわざ訪れてきたのはなぜ。俺は驚いていた。

「羽場戸先生、どうして?」

 妹と面識もない。わざわざ教え子の心の傷を慰めに。

「きみの妹さんがクリスマスイヴの夜に亡くなったとニュースでしってね、教え子の妹さんかどうか調べてから弔問にまいったしだいだよ、お悔やみを」

 それと同時に込み上げてきたのは、やっぱり健在だったことだ。

 羽場戸先生はいつになく微笑みが絶えなかった。この薄気味悪い笑顔はなにを意味しているのか。

 じっと俺の手に瞳が見据えていた。俺はやっと気づいた。

 そのためにきたのか、と。

「それは綺麗な球体だ。科学者としては実に拝見してみたいものだが」
 その目はすでに物語っていた。笑っているのは顔の筋肉だけだった。

「これは、その…」俺は動揺していた。

 なんといっても眼前の男は一ヶ月先の未来で手にかけてしまった。この球体を奪い過去へいって沙良を救うために、恩師である羽場戸先生から強奪した結果となった。

「それはどうしたのかね?」先生は不思議なことを言った。

「どういう意味ですか?」

 俺は眉を顰めた。

「きみのかい?」

「はい」即答した。

「ちがぁーう!」

 俺は声の迫力に退いた。弔問客がその張りつめた奇声にふりむいたくらいだ。

「ちょっと、先生…」俺はひそひそと場をわきまえてもらいたいと注意しようとした。

「その球体はわたしが研究の果てに完成させたタイムトラベルを可能にした装置だ」

 先生の真顔に圧倒されてしまった。

「なぜ、きみが持っているのかね?」

 その眼光は明らかに疑念が混じっている。いやそれ以上に何かを知っている眼だった。

 未来のできごとを体感していないこの人はなぜ、それをしっているのか。

 押し黙っている俺に真相を暴きだそうと血走った眼光をむけていた。そんな蛇のような眼で睨まれたら心までえぐられ覗かれているような気さえする。

「わたしを手にかけておいて、よくも過去を行ったり来たりと思う存分と都合のいい未来を書き換えておるな」

 恩師は俺の心臓を握りしめた。

 

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