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サスペンス

秘密-すれ違う二つの心-(1)

   

「俺のくつ下知らないか?」

 いつも収まるべき場所に靴下は入っていなかった。最近、智美のやつ、家事に手を抜き始めてるんじゃないのか? 

 娘の実那美(みなみ)が今年の春から幼稚園に通い始めた。それまで娘に費やしていた時間が空いたのだから、家事は万端こなせるはずだ。なのに、実那美が家にいる頃よりも、家事が滞っているような気がする。

 電車の時間が迫っている事もあり、智美に対し苛立ちを感じた。その気持ちは言葉にも表れていた。

「おい! 聞いてるのか? 靴下だよ、靴下! 早くしないと電車に間に合わないよ」

 思わず声を荒げる。いつもと違う様子に驚いたのか、幼稚園へ行く準備が終わって朝の子供向け番組を見ていた実那美が突然泣き始めた。

「あなた、大きな声を出さないでよ! 実那美が怖がってるじゃない!」

「お前だって大きな声を出してるじゃないか! 人のことは言えないだろう!」

「あなたが大きな声を出すからでしょう? 細かい事でいちいち怒らないでよ!」

「細かい事じゃない! 靴下がないんだよ! 早くしないと次の電車に間に合わないんだよ!」

「何でも人任せにしないで自分で探せばいいでしょ? 私だって忙しいんだから!」

「忙しい? お前が? 何言ってんだよ。ずっと家にいるくせに。俺は外で一生懸命働いてお金を稼いでるんだ。一日家にいてゴロゴロしているお前にそんなこと言われたくないね!」

「ゴロゴロなんてしてないわよ!! 私だって家で色々する事があるんだから! 朝から文句ばかり言ってないで早く会社に行ってよ!!」

 智美は俺に靴下を投げつけると、そのままキッチンの方へと向かった。実那美のお弁当作りの続きを始めていた。

 いつもよりも五分遅れている。俺は慌てて玄関へと向い、革靴を履くと急いで家を出て駅へと向かった。

 むしゃくしゃした気持ちで駅に辿り着く。嫌な事があった朝には、さらに嫌な事が重なるものだ。ホームを駆け上がると同時に、いつも乗っている通勤快速の扉がゆっくりと閉まっていった。

(ちくしょう! 朝からツイてない! 全部あいつのせいだ!!)

 近くにあったスチール製のゴミ箱を蹴飛ばす。思ったよりも大きな音がホームに響いた。周りにいた人達の視線が俺に浴びせられる。俺はいつもならば絶対に行かない、ホームの一番端まで移動し、次の電車が来るのを待っていた。

 

-サスペンス

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