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伝奇時代

生克五霊獣-改-26

   2018年3月6日  

 気丈に振る舞っていた蜃の本音が零れる。そして、お家を取り戻すことを決めた蜃の決心に、葛葉も晴明も失っていた希望を取り戻すのだった。

 時代伝奇ストーリー!

 

「もう止めてください。この子には、武家が合う。この子の言う通り、忍んで忍び生きていく。生きていかねばならない、それが恵慈家でこの里の宿命だ。だからこそ、何者にも縛られず自由であるのも確かなのだ。外の世界の魅力は知らぬ。しかし、今や鬼神に縛られたこの里の現実も外の世界とさほどかわらぬのであろう。そんな里を、この子には任せれん。松兵衛、頼む。もう、諦めてくれ」
 葛葉と共に、晴明も松兵衛に頭を下げた。
「明日、蜃様とお蝶様を送り届けましたら、儂は戻ります。儂は諦めません。この地を必ず取り戻し、あの豊かだった時を取り戻します故。そしたら、旬介を跡取りにしましょうな。鍛えてやらねば」
「その時は頼むよ」
 わかってくれた、わかってくれたが……蜃の心にぽっかりと空いた虚しさが残った。
 明日にはお蝶と2人、家に帰れる。家に帰って、元の生活に戻る。けれど、松兵衛はいない。跡継ぎとして家を守り、主人をみのに出世を目指す。目指すは天下、征夷大将軍……。ははは、と笑えた。
「今日は眠るな、明朝霧が晴れる前に2人で祠の松兵衛に会え。そこから、逃げるのだ。それまでに、家に文を書いてやる。達者でな」
 蜃は晴明と別れて部屋に戻るものの、迷っていた。ずっと、道を間違えている気がしてならない。
 そんな不安を察したのか、部屋で待っていたお蝶が尋ねた。
「明日、帰れるというのに。何を迷っていらっしゃるの?」
「俺は、間違っている気がしてならないのだ」
「では、何故その選択を選んだのですか?」
 お蝶は、詳しくは聞かなかった。聞かなかったが、何となく察してはいるのだろう。
「怖かったから」
 蜃もまた子供であり、人の子であった。
「今までの全てがなくなってしまうことも。知らないところで生きていかねばならないことも。戦わなければならないことも」
「そうですか」
 訳も分からず生活も母も奪われたお蝶には、蜃の気持ちがよく分かった。
「逃げてしまって、後悔はしませんか? 貴方を思う、ご両親が目の前にあって、守られているだけで、悔しくはありませんか? もし、同じ状況になった時はどうしますか? また、逃げますか?」
 蜃の視界が涙で歪んだ。ずっと我慢してきた気持ちかもしれない。
「でも、私はそれでいいと思います。生きる事も大切です。逃げる事も、時には大切ですから」
 お蝶は腰を上げると、身支度を整えた。攫われてきた状態であったので、持ち物等は殆どないが、それでも出来る限りの用意をした。

 

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