幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ハードボイルド

前園珠里探偵物語 悪魔の子②

   

 
「お前のとーちゃんが死んだぞ。心筋梗塞だとさ」
 病院から帰宅した珠里が彼女の部屋を掃除していたノゾミに見聞きしたことを告げると、
「ソウ、パパ、シンダノ」
 少年はくっきりした二重の目を見開いたが、想像以上の驚きはなかった。
 ノゾミは今、アパートはどの部屋でも好きに行き来できる状態にある。住民も気を許して合い鍵を預けていた。そういう妙な木訥さ、家庭の温かさが、少年から発せられていた。
「驚かねえの?」
「パパ、ドッカイクトキ、ソンナキガシテタ。ジュリサン、シラベテクレテ、アリガトウ」
 ぺこりと頭を下げ、掃除を続ける。
「お前、これからどうすんの? あてないだろ?」
 珠里は重要な局面にさしかかったことに気づき、あえて気楽に尋ねた。煙草を唇に挟み、ゆらゆらさせる。
「ミーユンサンガ、イッショニクラソウッテ」
「あー、あいつ外国人支援基金受けてるもんな。お前もそれに乗っかるの?」
「タブン」
 外国人支援基金は、日本の住む外国人労働者なら、誰でも受けられる仮想通貨基金だった。昨今増えてきた外国人出稼ぎ労働者のためにNPOが創設して大々的に告知している。外国人労働者だった代表理事が仮想通貨ビジネスで大儲けして、NPOを創設したいうサクセスストーリーが美談となってニュースを賑わしている。根っこも盤石で、代表理事にはいくつもの政治、ビジネスのパイプが大量にできて、ちょっとやそっとでは崩れなくなっていた。
 仮想通貨の資金源は潤沢にあり、噂では数百億が余剰になっているらしい。
 煙草に火をつけるのと、
「ソウジオワタ、ミーユンサントコ、イクネ」
 ノゾミがまたも頭を下げて出て行くのは同時だった。ひらひら手を振って、追い出す。
 隠してあったパソコンを立ち上げると、一瞬、なにかを噛ませられたようにウィンドウが閃いた。すぐにネット回線とパソコンを切り離し、両方とも処分する。パソコンはバキバキにとくにマザーボードを中心に壊して、ゴミ袋に入れ、窓から砲丸投げよろしく投げ捨てた。それから住民におかしく思われないよう、平静さを装ってアパートを出た。
「あんた! どこ行く! ノゾミ、掃除してくれたぞ!」
 窓から顔を出したミーユンが怒鳴りつける。室内から、「ミーユンサン! ツクロイモノデキタヨ!」と嬉しそうな声が聞こえる。
(ダウジングが当たったな)
 アパートを離れ、笹倉に電話をかけると彼は出なかった。
 舌打ちする。
 フェリチータに向かうと、当の笹倉が、ほかの刑事とともに珠里を待っていた。
「前園 珠里だな」
 刑事の靴に、唾を吐いた。
「ちげえよ」
 殴られ、唇の端が切れた。
「前園 珠里、NPO法人の仮想通貨、計五百五十六億二千三百二十一万をインターネット上で盗んだ容疑で逮捕する」
 令状を見せられ、手錠をはめられ、車に押し込まれた。
 笹倉の曇った眼鏡の奥は見えなかった。
 前園 珠里は、NPO法人・虹の架け橋の全財産を奪った犯人として、バー・フェリチータ前で捕まった。
 
 

つづく

 

-ハードボイルド
-, , , , , ,

シリーズリンク

前園珠里探偵物語 悪魔の子 第1話第2話第3話

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

おすすめ作品

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第四話 企業内要塞学校(17)

Egg〜スパイの恋人〜episode6

44口径より、愛を込めて episode10

Egg~ノクターン~episode4

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 最終話 埋蔵された巨謀(24)