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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第1話「巡り合いの地へ」

   

 
 アヴァランへ向かう船に乗り込んでから、一時間ほどが経過した頃、私はやっと船の揺れに慣れてきた。船上から感じる海風が心地いい。潮の香りを大きく吸い込んでから、足元でうずくまるシアンに微笑みかけた。

「ねえ、シアン! 船の上から見る景色ってこんなに綺麗なのねっ!」
「お前なぁ……何そんなにはしゃいでんだよ。船乗るの初めてじゃねぇだろうが」
「それはそうなのだけれど……あの時はそんな余裕なかったもの」

 二年前のことを思い出しながらそう言うと、シアンは大きく溜息を吐いた。そんな彼を見て、私は首を傾げる。先程からずっとこの調子だが、一体何が不満なのだろうか。

「もしかして、島に帰りたいとか――――……」
「それはない」
「ならどうして不機嫌なのですか?」
酔ってる
「えっ――――」
「酔ってるんだよ」

 彼こそ船に乗るのは初めてではないだろう。その疑問を飲み込んで、私は彼の背中を擦った。確かにいつもよりも僅かに声のトーンも低く感じる。

「何故もっと早く言わなかったの!? 大丈夫? 中で休んだ方がいいわ」
「いい」
「よくない。さあ、立って」

 ふらつくシアンに手を貸して、船内へ誘導する。時々口元を押さえるその仕草を見て、私は少し動揺した。どうやら本当に船酔いらしい。

「レベイさん! マットを借りてもいいですかッ?」
「ああ、いいよ。んー? まさか船酔いかい?」
「そのようです……吐き気もあるみたいで」

 借りたマットの上にシアンを寝かせて、レベイと顔を見合わせる。どうやら彼もシアンの体調不良に疑問を抱いているようだった。

「シアン君、きみ……船には乗り慣れているはずだろ? どうしてまた船酔いなんか……」
「あのなぁ、幾ら慣れてても無理なもんは無理なんだよ」

 シアンはレベイの言葉に苛立ち気味にそう答えた。だが、程なくして黙り込むと、顔を真っ青にして私の手を掴んだ。

「エリザ……お前ちょっと外出てろ」
「何故ですか」
「おっさん、桶か何かくれ……」
「はいはい」
「ああ、なるほど。私なら大丈夫だから、我慢したらだめだよ」
「いいから出ろって……! ッ、う」

***

「どうしよう……シアン怒ってた……」

 あれから二回ほど吐き戻した彼を見て、背中を擦ってあげようとしたのだが、吐いて少しは楽になったのか、いつもの調子を取り戻した彼に無理矢理外に出されてしまった。折角船の上にいるというのに、結局海を眺めていることしか出来ず、もどかしい。これから共に旅をするのだから、吐く姿くらい気にすることはないと思うのだが。
 

 

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アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第1話第2話第3話第4話

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