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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第1話「巡り合いの地へ」

   

 
 この先、シアンに守られることの方が多いだろう。だが、それでも力になりたいのだ。その為に剣だって覚えた。自分の身を守ることで精一杯かもしれないが、ないよりいい。そう思ってもらえるようになりたい。
 彼の頬に手を当てて、私は真っ直ぐにシアンの瞳を見つめる。

「私もあなたも、互いに遠慮なんてしなくていいんだと思う。あなたは私の従者じゃないし、私はあなたの主じゃない。あなたは私のでしょう?」
「…………」
「ね?」

 私が笑ってそう言うと、シアンは呆れたように目を逸らして、頭を掻いた。

「……ん、そうだな」
「うん、そうだよ」
「わかったから、お前も少し休んどけ。着いたら行きたいとこがあんだろ?」
「でも、もう二年も経っているから、無事に辿り着けるかどうか……」

 アヴァランに着いたら、行きたい場所が二つある。まずは、ルイスと最後に別れたあの教会。彼のその後について、僅かばかりでも手がかりが残されているかもしれないからだ。期待は出来ないだろう。だが、どうしてももう一度あの教会に行きたい。
 それからもう一つは、『マーサの宿』。何の言葉も告げずに去ることとなってしまったが、その後宿はどうなったのか、二年経った今の状況が知りたかった。それから、誰かに教えてもらったわけでもないのに、私が彼女の名前を知っていたその理由も尋ねてみたいと思う。今も変わらず、アヴァランで宿屋を営んでいることを祈るばかりだ――――。

「リュスト帝国かバール王国が今のアヴァランを動かしているのでしょう。私は死んだものと思われているから、真名を使っていれば、まず王族だとはわからない。でも、もしものことがあるから、兵には気をつけないといけませんね」
「俺達の目的地はレッドラットだからな。辿り着く前に騒ぎなんて起こしてみろ。身動き出来なくなるぞ」
「うん……わかってる」

 もちろん教会とマーサの宿には足を運びたいと思っているが、レッドラットへ行くという目的を脅かすことになれば、諦めるしかないだろう。それは納得していることだ。

「――――でも、お前が行きたいなら絶対に連れて行く」
「え?」

 立ち上がって部屋を出ようとしたシアンの背に、私は慌てて声をかける。

「ちょっと待って! 私は無理にとは……!」
あいつの手がかりなら、俺もほしい。だから行くぞ。いいな?」
「シアン……」

 そうだ。シアンにとって、ルイスは多分友人なのだ。自分が覚えてもいない約束を守るほどの相手――――。

「ありがとう」
「礼はいらねぇよ。いいから休め」
「はい」

 ルイスを探してくれる人が私以外にもいる。それだけで、頑張れる気がした。

***

「……い……お……おい……――――エリザッ!
「ッ!」

 耳元で聞こえた怒鳴り声に、私は慌てて飛び上がる。寝惚けた瞳を擦って見つめると、不機嫌そうなシアンの姿がそこにはあった。

「びっくりしたわ……」
「お前が中々起きないのが悪いんだろ!」
「ご、ごめんね」

 少し横になるだけのつもりが、すっかり寝入ってしまっていたようだ。

「着いたぞ、アヴァラン」
「それはよかった! 早く支度をしなきゃ!」
「おっさんが梯子降ろして待ってる。さっさと行くぞ」
「うんっ」

 これから町へ出ると思うと、胸が高鳴る。
 シアンに抱えられて船から地上へ降り立つと、レベイが明るい顔で私達を待っていた。そんな彼に頭を下げる。

「レベイさん、ありがとうございました。またいつか」
「ありがとな、おっさん」
「俺が送ってやれるのはここまでだ。子供二人で大変だとは思うが、頑張るんだぞ」
「はいっ」
「俺は子供じゃねぇ! 二十二歳だッ! 立派な成人だろうが、どう見てもッ!」

 むきになって言い返すシアンを見て、レベイはくすくすと笑った。
 子供のような大人、という意味では、レベイの言葉は間違ってはいないと思う。

「シアン、そろそろ行こう。日が暮れる」

 彼の手を取ってそう言うと、シアンは渋々頷いた。

「行って来ます!」

 そう叫ぶように伝えて、私達は町へ向かって歩き出した。
 
 

≪つづく≫

 

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アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第1話第2話第3話第4話第5話

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