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ハードボイルド

前園珠里探偵物語 悪魔の子③

   

拘置所にぶち込まれた珠里を助け出す笹倉。
笹倉と珠里はノゾミが拘留されているという少年院に向かい、ノゾミと接見しようと目論むが……

『悪魔の子』第3話 配信――

 

 
 女子拘置所で灰色のスウェットに身を包んで、同じく犯罪を犯したとされる女どもと一緒にぼんやりしているあいだに数週間が過ぎてしまった。再三再四、問い詰められるが知らないとしか言いようがない。担当刑事は逐一情報を教えてくれるが――それは外国人支援基金の資本金の喪失で、数十万の外国人労働者がストライキを起こしているとか、医療費が続かず病院を追い出されたとか、おおむね珠里が主犯として犯した罪の大きさだった――「そうっすか。知らねえっす」という無意味な問答ばかりをしていた。
 しかし、状況は悪い方へ傾き、珠里が処分したパソコンが回収され、復旧。無事、刑務所コース確定に至る直前に笹倉が剣呑な様子でやってきた。
 透明な壁の仕切りのこちらと向こうで話が始まる。珠里の隣にいた看守は、笹倉によって退出させられたいた。
「よお、楽しんでるか」
「あんたのブローカー探しを手伝ったあたしが馬鹿だった」
「まあ、そう言うな。ちょいと面白いもんがあるんだ」
「そういうのはここを出してから言えよ」
「出すとも」
 笹倉の宣言から一時間も経たないうちに、珠里の無罪が勝手に決定され、不起訴処分になり、自由の身になった。笹倉が権力というものを利用することはあれど、こんな強権を発動するのは珍しく、珠里は自由の身になったことより、その力の振るい方が気になった。
 荷物の一切を返され、ひさびさの煙草を味わっていると、地味な車がやって来て乗れと合図する。乗り込むと、曇った眼鏡の笹倉がにやりと笑った。
「お前は本当に期待を裏切らない動きをしてくれたな」
「嵌めやがって。クソが。あのノゾミってガキはブローカーから名前と戸籍買ったんだろう?」
「気づかなかったお前の馬鹿さ加減を恨め」
 笹倉が中国人ブローカーを訊いたときからこれを狙っていたことくらい珠里にも見当はついていた。信用すべきはノゾミでも笹倉でもない。誰も信用するなということだった。珠里はついつい笹倉と長年つるんでいた気安さにつけ込まれ、利用されたのだ。しかし、笹倉は平然としている。
「それで? お前がおっかぶせられた事件の主犯はちゃんと理解してるんだろうな」
 それくらいはな、と珠里はちびたタバコを窓から投げ捨て、新しい物をくわえた。
「あのガキが今回のNPOの全財産乗っ取りの主犯なんだろ? つか、当然だわな。ねぐらのアパートの全室に入りこんでいたから、あたしのパソコンに触るのも自由だし。で、事件は一件落着なんだろ?」
 問うと、笹倉は渋い顔をした。
「……事件はわかるんだがなあ。主犯がわからないんだ」
「は? ノゾミじゃん。戸籍買ったって、大元洗えるだろ?」
「そうもいかないのがこの事件の面倒くささなんだよ、タバコくれ」
 パンチのあるタバコをくわえさせてやると、火をつけてやった。美味いんだか不味いんだかわからない紫煙をため息とともに吐く。
「主犯の本名、生年月日、戸籍、一切がさっぱりわからん」
「あんたの女を使ってもか?」
「割れねえな。それこそ警察の連中が足で稼いできても全部空ぶりだ。いくつ名前があっていくつ顔を変えてるかまったくわからん」
 そう言って、ハンドルを切る笹倉は半年前に起きた大規模な新型オレオレ詐欺のことやいくつかの大型事件を口にし、「あれの主犯の宮前 徹だとも、羽原 まりかだとも言う」と面倒くさそうに呟いた。ノゾミが関わる事件はありとあらゆる手法で展開され、警察を翻弄している。主犯が〝誰なのか〟が特定されないかぎり、被害は増え続けることが決定づけられていた。
「めんどくせえガキだな。つーか、ガキの犯行だよな、たしかに」
 どこへ行くとも訊かなかったが、珠里はその道の先を知っていた。犯罪を犯した少年少女が一時的に拘留される場所だ。車はやがて、閑散を通り越して、なにもない海っぺりにたどり着いた。駐車場とも言えない白線が消えてアスファルトがめくれ上がった場所から、拘置所内に入っていく。受付で警察手帳を出し、ノゾミと面談したい旨を告げ、待った。お待ちくださいと刑務官がきびきびと応じる。
 面談室と書かれた部屋の前の廊下に置かれたソファに腰掛けると、笹倉はぼそぼそ独り言のように呟きだした。
「ノゾミは今、拘留が伸びるかどうかの瀬戸際にいる。少年法拘留適応期間の二週間を過ぎたからな。それに、ノゾミの両親――本当か嘘かはさっぱりわからんが、そう名乗る男女から、息子の事件をもみ消して、お前の事件にするよう圧力がかかった。男女とも政治家やビジネスに太い人脈を持つ有力者だ。ノゾミを逃したらもう捕らえられない。それで俺が動いた。少なくともお前の事件にしていいわけがない」
「だから、あたしを強引にシャバに出したわけだ」
 柱時計の呆れるほど軽快な、コッチコッチという音が廊下に響き、ふと閃いた珠里は口を開いた。
「アフマドは死んでないな?」
 笹倉は軽く頷いた。
「ノゾミの動きを見たかったんで、協力してもらった。一時的な仮死状態に持っていく薬を与えただけだ。今でも覗き小屋で掃除夫をやってる。癌なのは間違いない」
「とことん騙されてけちがついた」
「厄落としにノゾミを覗きに行こうじゃないか」
 だが、笹倉のその提案は、失敗した。

 

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前園珠里探偵物語 悪魔の子 第1話第2話第3話

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