智美とは全く真逆の性格をしている、総務課の黒田マユに、おれは好意を抱いていた。夫婦仲が上手くいっていない今の時期、彼女の屈託のない笑顔は俺の心を癒してくれていた。
そんな中、雄一郎が夫婦の問題に解決の糸口を見つけようと、俺にある提案を持ちかけたのだが……。
「おはようございます、脇坂さん」
可愛い笑顔を俺に向ける黒田マユ。彼女のその笑顔は、最近夫婦仲が上手くいっていない俺の心を癒してくれた。正直なところ、俺は彼女に惹かれている。いつも屈託のない笑顔を向けてくれる彼女に対し、俺は恋心にも似た感情を抱いていた。答えることも忘れ、俺は彼女のその笑顔をじっと見つめていた。
「脇坂さん? どうしたんですか?」
「あ、いや、ごめん、なんでもないんだ。おはよう黒田さん。システムに何か用?」
「健康診断の結果を配ってるんですよ。脇坂さんの分は……」
束になった診断結果の中から俺のモノを探している。伏し目がちな顔もなかなかのものだ。
「あ、あった!」
突然顔を上げた黒田マユと目が合う。一瞬時間が止まったように感じた。ほんの数秒間の無言が気まずい空気を作り出す。お互い照れながら、視線を逸らした。
「ありがとう」
「い、いえ……それじゃあ」
去ってゆく黒田マユの後姿を、デレッとしながら見つめていると、その視線の先には雄一郎の姿があった。口元を手で隠し、笑いを堪えている雄一郎を見ると妙にムカついた。黒田マユと入れ替わりに戻ってきた長瀬課長が席に着く。事務所の空気が引き締まる。俺は今日の予定に手を着け始めた。
昼休み。近くの定食屋で、雄一郎と誠の三人で昼食をとる。ここ数ヶ月、この三人で昼食をとるのが恒例になっていた。
「なあ、創。おまえんとこ、上手くいってないんか?」
「何が?」