幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・21

   

 俺は突然病院で目覚めた。白咲に路地裏に追い込まれて射殺されたはずだった。

 たしかに生きていた。沙良がナースコールを押していた。

 医師が診断して問題ないといって沙良も俺も安堵した。

 沙良が「自宅をでてからすぐに倒れた」というものだから、なんのことかわけがわからなかった。

 俺が見た記憶は、灰色のアスファルトだった。

 白咲の言葉が脳を走る。俺が元凶であると、そう言った。

 そんなはずはないと抵抗している自分がいる。白咲が元凶だろうと俺は反発していた。

 すべての悲劇は白咲の暴走が起因となっている。俺ではない。
 

 だが俺が射殺されたことで七名が亡くなった。運命は変わらないと警告されているようだった。

 しかし、射殺されたとき、俺は恩師がなぜ生きていたかを思い出したのだった。

 

 止まった肺が口を開いた。呼吸は荒くなっていた。吐いては吸って吸っては吐いてそれを繰り返している。呼吸をしなければこのまま死んでしまう。

 どういうことかわからないが、まるで水の中に落とされて両足に自分の体重よりも重い石を取り付けられて落とされたような気分だ。

「俺は、いったい…」乱れた呼吸の合間に言葉を挟んだ。

「だいじょうぶ?」沙良が心配そうな顔で俺を見ていた。ナースコールのボタンを連打していた。

 白い空間の中で、天使のような沙良の姿が目にはいった。白いコートを羽織っていたからよけいにそう感じさせた。窓から日差しが差すのも幻想的で現実味を感じさせない。

 看護師の女性が現れた。わかっていたが改めて認識した。どうやら病院にいるようだ。

 担当医師がすぐに姿を見せて俺の思考は正常に働いていることに気づいた。そして一番新しい記憶を思い出そうとその担当医の診察の最中探っていた。

「俺はたしか…」俺自身でも探っていた。

「静かに…動かないで」担当医師の男性は微動だにされると診断に狂いが生じるので動かないよう指示したが、しばらく容態を診ると問題なさそうだ、といった。

「でもよかった、気づいて──」沙良は傍らでずっと俺も見守っていてくれたようだ。

 涙目の沙良の顔を見て、俺は記憶を探るのをやめた。「でもここって…」

 なぜ、ここにきたのかわからない。俺は白咲に射殺されたはずだ。
 
 

「自宅をでてからすぐに倒れたのよ」

 沙良はなにをわけのわからないことを、俺はたしか路地裏で白咲に追い込まれて射殺されたはずだ。世間から気にもされずに野垂れ死んでいたはず。そこで記憶は途絶えた。

「そうだ、最後に見た光景は灰色のアスファルトだった。でもそれっきり…」

 自宅をでてすぐに倒れた、と沙良はいったが、ほんらいの時間軸ならいつまでも帰ってこない俺をきっと慌てふためき泣きながら捜しまわっていただろう。そんな姿を思い浮かべるも、天から少しでも声が届けばいいと願うばかりだ。しかし、地上までは風が吹いているせいで彼女の耳までは届かないだろう。

 病院に入院している子供が無邪気にプレゼントをもらえると思ってはしゃいで看護師の女性に怒られている。

「12月25日午前10時過ぎか…」

「そうだよ、きみ…クリスマスだ。病院で真っ赤なサンタクロースはちょっと避けてもらわないといけないからね。夢もないが看護師がプレゼントをあげている」担当医師が楽しそうにいった。

 医師の説明に俺はなにがあったんだっけとつぶやいていた。

「だいじょうぶ?」またしても沙良は心配するように俺の顔を覗く。「目がきょろきょろと動いている…」

 たしかに動揺している。俺は白咲の撃った銃弾が額を撃ち抜いたのを、おぼえているだと…。

 おかしな話しだ。一瞬の意識は残っていたとしても。額に食いこみ脳を貫通するまで意識がある。その一瞬、最後に見た光景が灰色のアスファルト、と思い出せる。

「あのやろう…」俺は思わず歯ぎしりを立てた。

 沙良は自宅をでた俺が倒れて救急車を呼んだ。意識がないため搬送された病院で緊急検査だ。脳に異常があるかもしれない。そのまま入院となった。

 検査は無事に終わり身体に異常は認められない。あとは数日で血液検査などの結果が出るくらいだろうが、安静にするよう言われた。

 特に問題はないはず。どうやら精神的になにか打撃のでかい衝撃を受けたのかもしれない。と医師は説明した。

「記憶障害というのが一般的かな。何か強い記憶を唐突に思い出したりすると、情報整理ができずにパニックに陥る。すると部屋のブレーカーを落としたみたいになる」

「卒倒したり…」沙良は適格に答えた。

「そうだね」医師は優しい笑みを浮かべて頷いた。

 痛恨の一撃というものだ。俺は二人の会話を沙良から聞かされながら窓の外に視線を向けていた。

 枯れ木に小鳥が二羽とまっている。毛繕いしている。仲睦まじい姿を病んだ患者にみせつけていた。自由っていいなと俺は頭の中で言葉にしていた。

 俺が気を失って倒れた原因はわかっている。

「聞いてる?」

「えっと、なんだっけ」

 沙良を心配させるわけにはいかない。

 白咲は言った。俺が元凶であると、そんなはずはない。彼女の顔を見ていると、そう思う。すべては白咲が元凶だ。

「あきらかじゃねーか」俺はつぶやいた。

 今朝のニュースの報道番組を見たが、車の運転ミスによる事故、高齢者が寒暖差による心臓発作、積雪によって足を滑らせ階段から落下事故…。

 六名の名前が報道された。

 やはり七人目の死亡者はない。でも、一日遅れて俺が死亡した。つまり未来は変わっていない。かならず犠牲者は七名がでるということだ。

 

-恋愛 / ラブ・ストーリー
-, , , , ,

シリーズリンク

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

おすすめ作品