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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・22

   

 病室に戻ると沙良はとても不安そうな顔で俺を見つめていた。羽場戸先生のことが気にかかるようだ。

 二人である男を一人止めなければならない。だが沙良は俺の安否を気遣って入院を長引かせようとしている。

 いますぐにでも球体を使ってイメージを送り込みたい。だが、体調はたしかに完全快復したわけではない。誤差が生じたら戻りたい過去へはいけない。

 明日まで待って今日に戻ることにする。それなら沙良の心配も解けるだろう。

 翌日に退院でき、沙良は迎えに来てくれた。自宅で退院祝いをしてくれる。

 自宅に帰って、改めて白咲の銃弾によって射殺されたが、球体のおかげで魂と意識は過去へ戻ったのだ。

 ふと球体の理屈のようなものを考えさせられたが、頭を使うのは性分ではない。

 今はただ沙良と戯れたい気分に駆られていた。

 だが、そんな温かみのある暮らしに背をむけて、最後の闘いへと歩みを向けないとならない。

 

 病室のベッドに戻ると、沙良は唇を結び、無言のままちらちらと負の光が放つ瞳でじっと俺のことを見つめていた。

「なんだ?」俺はその熱視線に耐えきれなかった。

「いえ、羽場戸先生と一緒になに話していたの?」彼女は椅子に座り、俺のようすを窺っていた。

「うん、ちょっとね…」

 俺の動揺を完全に悟られている。まずい。誤魔化すよりも強引に無視しなければならない。言い訳すると踏み込んでくるのが沙良のおとなしい性格の中に秘めているお節介な熱量だ。

 つぶらな瞳は灰色で、とても純粋であるがゆえの暗がりを秘めていた。白でも黒でもない。完全に疑っている。いわないだけだ。できた女であるが、ある意味そこが恐い。

 羽場戸先生と二人である男を止める説明をどう話せばいいのか。そんなことをいっさい伝えることなどできるわけがない。俺はすぐにこの病院を退院したい。時間が惜しい。刻一刻と進んでいることを沙良は感じていないだろう。

 そんな俺の躍動を阻むかのように沙良は入院を長引かせようとしている。

「いつ退院できるかしりたいな」

「完全に治るまでおとなしくしてもらいます」

 沙良の口調は鉄のような硬さがあった。俺の要望などすべて跳ね返すと言わんばかりの鉄壁がある。もはやこの病室のベッドの上が俺の行動範囲と化していた。

「ちょっと、もう俺はだいじょうぶだって、病院ってあまり好きじゃないし、療養が必要と思うなら自宅でいいからさ」

 俺の訴えをどう解釈するかわからないが、沙良の顔色は優れているとはいいがたい。

「退院の許可がでるまで入院してもらいます」

 沙良の鉄壁はどうやら俺では越えられないようだ。自分の身体だ、どんな症状でいるかわかりきっている。まったくもって問題はない。あるとすればタイムトラベラーとして乗り物酔いにでもなったくらいだ。とりあえず今日は一晩休んで明日から活動したいと望んでいる。

 そして球体にイメージをこめて、今日に逆戻りしてスクランブル交差点に行けば白咲がいる。

 今日遭遇したんだから、その予定のはずだ。そこでやつが逆上しないよう対話を試みる。

 

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