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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・24

   

 銃声が一発。だが、何の音か多くの無関係な通行人が振り向く。

 そして、俺は白咲と最後の対峙すると、逃げ惑った。

 羽場戸先生がサポートしてくれている。かならず食い止めることができると。

 だが、白咲も同じことは繰り返させないと言わんばかりに体に細工をしていた。

 こぶしだけで俺は対抗するしかなかったが、どうやら白咲には通じなかった。

 そして、以前自分を気絶させた年配の男性、羽場戸先生のことだが俺を射殺する前に問いただした。

 おかげで俺は対話の時間を稼げる。恩師にもそうするよう言われていたからだ。だが、なんら窮地であるにはかわりない。

 しかし、それが一発逆転へとつながった。

 

 銃声が一発、騒々しいスクランブル交差点を切り裂いた。多くの無関係な通行人が振り向いている。

 なになになになになに?

 口々に日常にそぐわない発砲音が強烈に不安を煽る。

 羽場戸は人ごみに紛れて俺が動いたほうとは逆にそっと動いていた。

 一発で俺は負傷を負ってしまった。

「たいした腕だな、まったくよ!」だが、それは白咲にとっては幻覚だった。

 一発の弾丸が放たれたとき、わざと肩や腕に撃たれたように装う。それで相手は油断するだろうと、羽場戸先生の助言もあった。

 ふらつくように俺は体勢を崩したが、その反動を利用して一気に間合いを詰めた。

 かなりの勇気を振り絞らないと銃口をむけた相手に突進はできない。

 かすり傷を負ったと思わせることで、油断している白咲の懐に潜り込むことができた。

 俺が突進していくのと同時に霧状のスプレー缶を白咲に向けて噴射しつづけている羽場戸先生のアシストもあって、二発目の発砲はなかった。

 白咲はやっとスタンガンで背後から電流を流したのが誰か気づいた。

「おまえだったのか!」

 だが視界は完全に半減している。

 俺の頭の上に白咲の伸ばされた右腕が浮遊している。防御すらとれない状態で俺は右こぶしに力を溜め全力の一打が放たれようとしていた。
 白咲も俺の存在に気づいた。羽場戸先生はそのまま交差点の人ごみに消えていった。

“遠回りしてきたことが一番の近道である”。

 未来と過去を何度も行き来していながら多くの人間を巻き込み壊滅に陥れ、多くの人間を救うことになる。幾たびの模索もこの瞬間のためだ。

 白咲を殺すことがこのタイムトラベルの終末となる。この一撃が幸福な未来へと生きるための活路となる。

「死ぬのはおまえだったな!」俺は右こぶしに全身全霊の力を込めて放った。

 白咲の無防備な懐に潜り込んでいた俺の体勢からだと腹部に狙いが定まっていた。顎を粉砕するアッパーカットでもよかったが、かわされたら体が上へと伸びきってしまうことで白咲に隙を与えてしまう。その隙に伸ばされた右腕を縮ませたら俺の顔面に銃口がむく。

 一撃必殺ではあるが第二撃の発動も考えて繰りだすものだ。俺の狙いのポイントは腹部だった。腹の溝にめりこむように右こぶしが埋まった。

 白咲は完全に有利だった。静かなる猪突猛進の打撃は白咲の腹部にきまった。

 勝利の女神は俺に微笑んだ。沙良が笑っている顔が浮かんだ。これで完全決着だ。

 と思った瞬間、沈んだ白咲の顔が上に向けられた。無表情だ。痛みを感じていないような虚ろな目がこちらを睨んでいる。

 瞳が異様なほどに真っ黒だった。全身全霊のこぶしの攻撃がなんとも痛みを感じていない顔は、涼風を浴びている顔だった。

 ありえない、と俺は勝利を確信していたためか伝達が遅かった。

 俺の右こぶしに痛みが生じている。「いてっ、なんだ…」

「冬というのは実にいい」白咲はおもむろに言った。「厚手の服を着込むことで中身がどんなことになっているか想像もつかないだろうからな」

 すぐに俺は察した。「なにか着込んでいるのか?」ものすごく堅い物質を感じた。鍛え上げた筋肉ではない。硬質な素材の感触だといまはっきりと痛みが走る。右こぶしの神経が脳へと伝達している。

「ゴム製のプロテクターだ。同じ手は食わない」白咲は上半身の服を捲りあげた。黒いプロテクターを装着している。

「スタンガン対策ってわけか…」

 羽場戸先生のスタンガンを警戒しての装備だった。迂闊だった。このくらいのことを予想しておくべきだった。

 再び二人の間の距離が3メートルと離れた。この差は白咲に有利な距離だ。銃口を向けて引き金を引く。俺が俊足で動ければまた的をはずすかもしれない。だがすでにそうさせないだけの状況の悪化。

「同じ手は食わないぞ。突進してきても無意味だ。そのために先に撃つ」白咲の瞳孔が真っ黒に広がった。

 通行人たちは恐怖し悲鳴をあげている。一人の狂気じみた男のせいで右手に握られている黒光りの物に逃げ惑っている。状況は少しちがうが路地裏で射殺された状況に酷似している。右こぶしの負傷のせいで痛みが全身の神経を走らせて俊敏な動作の歯車を鈍らせている。

「殺すまえにさっきの年寄りはどうした? この状況で逃げだしたか?」

「そんな悠長なことをいっている暇があるのか? スクランブル交差点でこんな騒ぎを起こして、警察がすぐにくるぞ…」俺は一秒でも時間稼ぎをする。

“もし、きみが一撃でしとめられずに負傷を負ったとき、一秒でも長く対話をして時間を稼げ、そうすれば…”。

 

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