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風刺 / ユーモア

有名人どっと込む

   

銀行の融資担当、藤原は先の見えなさに頭を抱えていた。銀行の規模からして大プロジェクトへの参入は無理、したがって地域密着でやるしかないが、どこも景気がよろしくないのである。

とは言え愛着がある地元の店相手の仕事でもあり、特に学生の頃行きつけだったゲームセンター経営企業「アミューズメント タニカズ」に関しては、色々な「裏ワザ」を見て見ぬふりをして稟議を本部に回してきたが、もうそろそろ限界だった。

しかし、支店長にひとしきり怒られてから無名の工場に「営業」しに行った彼は、活気のなかった工場に異様なほど著名人が詰めかけているのを見つけ……。

 

「いやあ、本当すまんね。ありがとう、藤原。お前が本店にまで回してくれたおかげで、当座はしのげそうだ。やっぱり、こいつが効いたのかな」
 意気揚々と語る店長兼副社長に、藤原 和也はふうっと息を吐いて首を横に振ってみせた。
 普通の外回り先なら、どんなうかつな同僚でもこうした態度は取らないものだが、衝動を抑える気力がなかった。
「言っときますけどね、先輩。俺は詐欺の片棒を担ぐために大学院まで出たワケじゃないんですよ。地元に少しでも貢献するべく、都合三年間も……」
「分かってるよ。西口支店の店長として三年、就職活動を続けてきて、銀行に通ったんだ。まったく快挙だよ。社長も俺も中学までしか出てないわけだし」
 と、年下の「元部下」の渋面など気にせず喜色満面の笑みを浮かべる店長の表情には、まるで若者のような艶があった。
 ここ二十年以上、青少年の行動規則が厳しくなり、携帯やスマホが隆盛していく中で、店をどうにかもたせてきた苦労を見て取ることがはできない。結局、この「職場」だけが店長たちにとっての夢なのである。
「しかし、二度とこの手が効くとは思わんで下さいよ。『特別枠』が残ってたからって、ムチャクチャが過ぎる」
「ははは、何をお上品なことを。中学の頃、筐体をギろうとしたお前らしくもないぞ。何より、遊んでる常連さんたちの楽しさは本物だし」
「楽しさだけは、ね」
 藤原は、店長が仕上げてきた「小道具」、パンフレットを改めて見やり、その内の一枚をポケットの中にしまい込んだ。一応、これも立派な資料である。
「アミューズメント、タニカズ」、県内、そして関東ブロックを中心に六店舗のゲームセンターを運営する、地域密着型の中小企業だ。
 従業員数は三十五名、一店舗あたり五名前後のスタッフで効率良く運営し、最新式の筐体も完備する、と記されている。
 新入社員用のパンフレットとしては、まず隙なく作られていると言える内容だ。

 

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