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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】1

   2018年4月6日  

 御影は慣れないバーで一杯つけてから、一日の労働にその身を労わっていた。

 ちびちびとバーボンを一気に飲み干してむせる若き探偵は、一つ大人の世界を学んだ。

 最近、胸が踊るような依頼がない。それに嘆く御影探偵だった。
 
 

 翌日、探偵社に顔を出す。また気の向かない依頼しかないと思うと首が垂れ下がるように落ち込むのだった。

 輪都もいない金曜だが備品のメンテナンスに余念なく磨きに勤しんでいた。

 そんなとき小柴事務員から明日土曜に出張依頼があるからと出向を命じられた。

 ひさびさの推理をする機会を与えられた御影…、だが輪都も同席し茨城県へと出向するのだった。

 

 御影は一日の労働を労うように、バーのカウンターでフル回転させていた思考回路を停止させるため、一杯つけようとしていた。

「ぐふ、ぐふっ、ごほっ…」

 バーのマスターはどんな客にでも気遣いを心がけ、一声かける接客マナーを身につけていた。

「だいじょうぶですか? お客さん、まだお若いのに、やっぱりバーボンを飲んだりするから、普通ちびちびと飲むものをなんでいっきに飲み干したんですか? そりゃ咳き込みますよ」

 ブルルと鼻が鳴った。なんとも情けない一面を初対面のマスターに見せてしまった。

「心配ない。だいじょうぶだ、ぐふっ…、マスターお勘定…ごほ」

 探偵は清算をすませバーを出る。身体を労わるどころか身を削ぐような思いになったことを後悔した。

 マスターのありがとうございました、またのご来店を…の声は力なく聞こえた。

 おそらく、この若者は二度とこないだろうと推測を立てていたのだろう。

 探偵並の推理力だ。

 探偵は振り返り、バーを見つめた。その背景には赤、青、黄、橙、桃、緑、紫と新宿色のネオンがピカピカと光っていた。

「酒のたしなみ方を覚えるのも知識のひとつだ。そうか、ちびちびか──」

 決め台詞も決まらない一人前の探偵、御影みかげ 解宗ときむね

 黒い短髪に、黒のジャケットを羽織って、黒のジーパン、スニーカーを履いている。闇に溶け込むような服装は探偵ならではのファッションだろう。

 若干23歳で、日本屈指の名探偵氷室と肩を並ぶほどの推理力をもっている。いまでは氷室探偵に追いつくほどのスキルと解明力が備わっていると自負している。

 咳き込むふがいなさがあったが、それはまだ本当の大人の味を知らないだけだ。それなりの風格を背中で背負えるほどのオーラを放っているのは確か、でも大人の世界での視点をまだその眼で見ていない。

「さて、どうすっかな」このとき御影の脳裏に助手の男の顔が浮かんだ。「輪都のやろうめ、またさぼりやがって、見つかったからよかったものの…」

 今日の依頼は猫のペット探しだった。街じゅうを駆けまわる一日でたいへんだった。

 とはいっても一週間前から探索していた。目撃情報をリアルタイムでほしかったためSNSを利用して情報収集をしていた。

 意外と暇な一般人からの協力をもらえるものだ。やはりカワイイ猫だからだろう。特に報酬はないが感謝だけは述べる。それだけでじゅうぶん喜ぶのだ。

 飼い主に猫が戻るというのは協力した者たちもそこはかとなく喜悦している。自分のことのように安堵するようだ。

 もっとも御影はどうでもよかった。それだけの労力をかけている。もうクタクタだった。

 草木をかきわけ、路地裏をくまなく目視し、ドブに身を投じることも、そしてきわめつけは獰猛な犬に吠えられるが、なぜか御影は闘争心をむき出して吠え返す。

 そのたび周囲の目はあざといほど冷たい視線を浴びていた。

 そんな日々を何かで労うことに関心をおぼえるようになったのは本当に最近だった。

 まだバーボンの味は御影の舌にはあわなかった。馴染むまで時間はかかりそうだった。

 夜の新宿はまだまだ眠らない。どこか胸のあたりに風が通り抜けていく。そんな空虚な気分になっていた。

「最近、胸が躍るような依頼がないなぁ…」

 ひと言つぶやきその日は終わる。

 

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