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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】5

   

 依頼を終えた二人は、東京へと車を走らせる。

 御影は推理だけすると輪都とともに引き下がった。杜坂と芝原家の関係性は当人同士にゆだねるしかない。

 輪都にとって苦渋の依頼でもあった。杜坂という犯人が輪都を通じて推理の度合いをはかろうとしたのだから。

 御影探偵のすごさをまた改めて感服するのだった。
 

 そんな輪都の心情を察して、すっかり遅くなった昼食をとることを提案する御影。

 すると輪都は…意外なことを口にした。

 

 依頼を終えて芝原家から社用車に息吹を吹き込んだ。東京からの来訪者に見送りは誰一人としていなかった。

 御影は謎を解明し、依頼どおりのことをすませると「じゃ」と手をあげて請求書をテーブルの上において退散していった。

 腰に紐でもつながれているように輪都はそのあとを無言で立ち上がり引き下がった。

 それはしかたがないことだった。相手は警官だ。自分で判断するか、もしくは芝原家がどうするかによる。家族同然として馴染んでいた杜坂を手荒く放り出すようなこともあるまい。だが、今後はどのような付き合いになるか、それは本人たちにゆだねられる。

 押し黙っていられるほど御影の指摘は芝原家の人々の心に疑惑を抱かせ、杜坂を見る悲痛たる視線を惜しむような情けがふくまれているように感じた。

 前面のガラスから覗く景色から、遠目でうっすらと海岸が見えることに御影は気づいた。傾いている太陽は、オレンジ色のグラデーションをきれいに一点の曇りもない大空を染めていた。その反対側の海岸は、濃紺のカーテンを閉じるように、いまにでも夜になることを告げているようだった。

 東京への道のりを走らせる御影は唇を噛みしめながら運転をつづけていた。

 輪都は助手席の窓から依頼を片付けた男の底知れない洞察力に、めずらしく感服していた。黙っていることは決して隣にいる探偵が血も涙もない冷酷な男として見ているわけではない。

 杜坂と打ち解けあうような軽率なことをしていた自分が恥ずかしくなっていた。

 なにもできなかった。むしろ犯人にいいように利用され、腹を探られていたなんて、探偵助手の肩書きなんて誇示しようとは思わないが、でも氷室探偵社の助手は、ちょろいもんだ、と思われるのは氷室名探偵の顔に泥をぬることになる。それだけは耐えがたいことだった。

 御影探偵ならどっちになろうと輪都は気にしないが、でも、こういう推理が際立つときには御影探偵のすごさをまじまじと垣間見ることが苦痛でならなかった。

 輪都は、あきらかに負けている。その推理の一点だけにおいて。といいたいが、ほかの面でもやや先行して歩いている背中をいつも見ている気がする。そのせいかもしれない。自分が篭絡されたふがいなさは欠点に思える。

 御影の欠点、それは…。

 ない、輪都は改めて御影という男に欠点がないような気がしてならない。一般常識的な意味の範囲内であるが、自分ですら惜しむらく、そのスタートラインにすら立てていないということだ。

「すっかり遅くなっちまったな、飯、食いたいよな」

 輪都のごきげんが斜めなのを気にしている御影だった。さすがに昼を抜きにしてしまい長々と演説を講じていたため、そして結論をだそうとする芝原家の重苦しい面相にどうにも引き下がりたかったが、いくつかの選択肢を助言して退いたため、思ったより延びてしまった。

 輪都はすっきりしない顔をしていた。

 そうとう怒り狂っているようだ。御影は心情を察した。いや、腹具合を鎮めてやらないとならない。

「どうした? 今朝から楽しみにしていた飯屋にいこうぜ」

「いえ、べつに…腹はいいんですけど、そういうことでは…」

 歯切れの悪い物言いを輪都がするのは初めてだった。いつもなら簡潔にズバッと刀剣で御影に一刀を振り下ろすところだが、なぜか刃こぼれしているような錆びついた刃だった。

「御影さん、どうして彼らに犯人の運命をゆだねたんですか?」

 やっぱりそのことか、というふうに御影は顔を曇らせため息を吐いた。

 

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