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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】7

   

 輪都のノートパソコンに追跡用発信機を取り付けていたのを思い出した御影はスマートフォンの画面を見つめていた。

 輪都は東京へ帰りたがっていたというのに、どんどん離れていく。それは考え難いことだった。

 せっかくの旅館の宿泊をとりやめ、輪都の追跡をすることになった。そしてついにスマートフォンの輪都を示す赤いポイントマークが停止した。

 その場所は廃屋の建物のようだった。

 どうにも輪都の行動に疑問をもつ御影だった。現場へ行けばすべてがわかること、だがあれこれと考えていたら、もしかしたら何かの事件に巻き込まれてしまった可能性が高いと結論に至った。

 

 輪都と音信不通になっていることを懸念するも、御影は少々身勝手が過ぎたかと温泉につかりながら反省していた。

 とっても気持ちのいい温泉に、輪都の姿に湯気がかかり真っ白になって消えてしまった。

 室内にもどった御影はスマートフォンを取り出して画面を指で操った。

 髪の毛をタオルで拭いながら、「なんだいったい…」と訝るような目で画面の一点に視点を落とす。

「輪都のやつどこまで歩いていったんだ。しかも移動中なのか、動いているぞ──」

 輪都が持っているノートパソコンに発信機を取り付けているが、居場所がわかるだけで一人でいるのか、それとも誰かといるのか、そういった会話は拾えない。だが徒歩にしては速い。

「タクシーで移動か、あいつ…、東京に帰りたがっていたのに駅と間逆に遠ざかっていやがる。むしろこの旅館に近くなってきている」

 しばらくその動向を見守った。

「この旅館を通り過ぎてどこまで…、まだ遠ざかっていく…」

 輪都が動いている赤いポイントマークは北上していた。どんどん帰りたがっていた東京から離れていることに御影は違和感が拭えきれなかった。

「どこ行くんだよ…」御影は湯のみのお茶を啜りながら、たわむ脳をひきしめて思考をめぐらせていた。

 言い知れぬ不安を募らせていた。

 御影は着替えて出掛けるしかなかった。

「湯冷めするな、こりゃ…でもしかたない。わけのわからないところにいってしまうのは困ったものだ」

 スマートフォンの画面を御影は凝視しながら、輪都の移動している位置を追跡することにした。

 あいつにとっての大事なアイテムのノートパソコンに一細工しておいてよかった。

「迷い猫を捜すにはこれが一番か…さて、どういういきさつでそんなことになったか、しっかりと話してもらうぞ、輪都」

 旅館で一旦清算を済ませた。受け付けで説明しながらも、温泉で清められた温い身体が湯冷めしないよう社用車のエンジンを温める。

 車を走らせるまえにスマートフォンの画面をもう一度一瞥した。すると赤いポイントマークは点滅しながら停止していた。

「どこかの町のような、跡地か」

 画面をスワイプして町のその場所を大きくした。

 すると御影の目が鋭くなった。片方の眉があがった。それはとても難問が浮かび上がったからだ。

 人が行きそうもない廃屋にいることがわかった。

「なにしてんだ、あいつ…」

 このあたりをストリートビューに変換してあたりを見渡してみた。やはり廃屋の建物があり、あとは周囲には自然がひろがっている。
 
 

 御影は闇を切り裂くようなライトを前方へと放った。二本の光の筋が前方を照らす。

 まだまだ闇の濃い世界がひろがり、御影の心情すら不安を煽りだしていた。

 輪都という助手が、なぜそのような場所に向かっていったのか、理解はできなかった。

 いまだに推測にもいたらないが、もしかしたら何か事件に巻き込まれてしまった。そう考えれば輪都が東京から離れて行こうとするのは不本意で自らの意思ではないと説明はつく。

 能書きはあとでじゅうぶん点滅しているポイント場所に行けばいいだけのこと。なんらかのヒント、もしくは一気に解明できるかもしれない。

「最悪な選択としては、知り合ったばかりの人の家に宿泊。もしくは本当に知り合いの実家に宿泊。もしくは民宿でも見つけて自分から離れるためにタクシーで移動して宿泊している──。もしくは輪都の祖父母家があったり、気まぐれに方向転換しただけというオチで徒労に終わることも考えられる。それだけは勘弁だが、輪都の身を案じてのことで考えれば致しかたがない。まさかこんな行動にでるとは予想していなかった」

 すぐに連絡して、御影がいる旅館へともどってくると信じていた。どれもそんなタイプの男ではない。輪都は頑なに帰宅を望むはず。帰れないとわかれば連絡してくると思っていた。

「だからわざわざ東京から一メートルでも離れるとは考えられない。近づこうとする方法を選ぶはずだ。だから、これは──」

 御影はあまりよろしくない最悪な選択肢が前頭葉あたりに浮かびはじめていた。

「やっぱり確率として事件性が高いな…」

 

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