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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第3話「マーサの宿」

   

消えたマーサ。そして、見つけた地下道への道。もう一度地下から教会を目指すことでエリザが得ようとしているものとは?

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編』
【毎週更新】

新章 第3話「マーサの宿」

前作
(1)『アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編』全50話
(2)『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』全40話

 

 
「だーかーら! 待てっ!」
「シアン、どうしよう……マーサがもしかしたら……そんな……」
「落ち着け。おい、今言ったばっかりだろうが。無茶すんじゃねぇよ」

 シアンは静かに叱って、私の腕を掴んだ。そして、頭を数回撫でてくれた。

「とりあえず、聞き込みだ」
「……うん、そうだね。焦ってごめんなさい」

 このままではいけない。冷静にならなくては、いつか取り返しのつかない失敗をしてしまう。焦ってはいけないと自分に言い聞かせて、私はシアンの顔を見上げた。

「ごめんね、シアン」

 微笑んだ私を見て、シアンはわざとらしく溜息を吐いた。
 シアンの言う通り、まずは『聞き込み』だ。それ以外に方法はない。だが、あの日は夜も遅かったし、逃げることに必死で、宿がどこにあったか記憶が曖昧になっている。

「町民に声をかけてみるか」
「そうね。昔からここに住んでいる人達なら、きっとマーサについて何か知っているはず……」

 落ち着きを取り戻した私は、シアンと共に町民に対して聞き込みを始めた。
 マーサの宿の名前はわからなかったけれど、それなりに繁盛していたと思う。情報は必ずあるはずだ。そう信じて私達は歩き回った。

 ――――だが、数時間経っても、誰一人として『マーサ』という名の老婆を知る者はいなかった。
 ――――まるで、彼女の存在が抜き取られてしまったかのように。

 それでも私達は諦めずにマーサの宿について尋ね続けたが、結果は変わらなかった。そして、段々と夜が更けて、酒場や賭場に集まる兵が多くなってきた為、マーサ探しは一度断念するしかなくなった。

「エリザ、フード被ってろ」
「シアン……」
「ここも兵がいる。向こうへ行くぞ」

 シアンに手を引かれて、私は再び歩き出す。
 マーサを知る者がいない――――。予想だにしていなかったことが起きている。

「どういうことなの……? 何で誰も知らないの……?」
「偽名使ってたんじゃねぇか?」
「でも彼女、確かに頷いたのよ。私が聞いた時、確かにそうだって……」
「ん? 待て。その婆さんがお前に直接名乗ったわけじゃないのか?」
「うん――――……あっ

 そうだ。私とルイスは彼女を『マーサ』と呼んだけれど、他の人はどうだっただろうか。私達は、一度でも他人が彼女を呼ぶ声を聞いたことがあっただろうか。
 その瞬間、私は呆然と夜空を見上げた。
 たとえ、『マーサ』という名が本当だったのだとしても、周りの人間にもその名を名乗っていたかどうかはわからない。シアンの言う通り、偽名を使って宿屋を経営していたのだとしたら――――。

「手がかりが……なくなっちゃう」

 いや、そう決めるにはまだ早い。まだ何も諦める必要はないではないか。こうなったら、自分の力で宿屋を探す他に道はない。建物の隙間に見えた教会を見据えてから、私は大きく深呼吸をした。そして、シアンの手を強く引いて、立ち止まるように促した。

「何か思いついたか?」
「あのね、あの日、私とルイスは宿から教会まで行くのに地下道を使ったの。感覚は少し曖昧になったけれど、そう遠くはなかったはずです。この近くに……必ずある。マーサの宿は」
「地下道……か」
「どうかしましたか?」
「なーんか引っかかるんだよな」
「え?」
「何の為にそんなもんがあったんだ? まるで全部わかってたみたいじゃねぇか」
「…………」

 その言葉を聞いて、私はペンダントを握り締めた。
 

 

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