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ショート・ショート

確かな仕事、確かな保証

   

どんなところにも人の欲を動かすものはあり、またその数だけ詐欺は存在する。

不明瞭な査定によって手下もろとも始末させられそうになった速水は、「成功報酬しか受け取らず、死体を発見されたことがない」暗殺者に仕事を依頼する。

平口と名乗るその男は、裏稼業をやっているとは思えないほど物腰が柔らかく、しかも「仕事」の保証をするシステムを講じているのだと得意げに説明してきた。医療関係者崩れの連中を同行させ、客観的なデータを見せつつ「確認」を取るのだという。

速水はその手法に感激し、相場以上の資金を渡して仕事を頼むが……。

 

「それは、安易でしたね、速水さん。ネット上とは言え見ず知らずの相手から候補を選ぶとは。もちろん表沙汰にできませんが、この手の話はもっとも割の良い詐欺の一つでしてね」
 ある地方都市に存在する廃ビルの一室で、ボロボロになった椅子に身をもたれさせ、平口は呟くように言った。
 恰幅良い姿と魅力的な笑顔を浮かべている顔からは、「殺し」をやる側のオーラをまったく感じ取ることはできない。
 間違いなく、自分より「経験」はないだろうと思うと同時に速水は、彼の言葉に頷いてしまっていた。
「そうなんです。とにかく嫌な連中が多いですよ。依頼人の必死な思いをふみにじり、しかも大金を平気でガメていくんですから、最悪と言ってもいいでしょうな」
「いえいえ、あなたはむしろ運が良かったんですよ速水さん。当局が罠をかけただけだったのかも知れないんですからね。何せ、大事件なんですからね。こちらには正義があるとは言え……」
 平口に笑い交じりに慰められ、速水はふんっと鼻息を漏らした。実際、相当な被害に遭っていたからだ。
 およそ五千万円という大金が、既に彼の隠し金庫から無くなっている。
 半生をかけて必死に貯め込んだ財産の半分の額を、色々と理由をつけられて奪い取られた。
「暗殺者」、「殺し屋」と名乗る連中によって、である。
 しかし、ネットの深層、ダーク・ウェブだけで通じる隠語を駆使して交渉した彼らは、誰も「仕事」をこなしてはくれなかった。
 相手はプロで、もっと言えばヤクザの極悪人であり、狙いにくいことはなかったはずだが、異なる三つのグループとコンタクトし、大金を投じたにも関わらず、標的は完全に無事であり、襲撃があった形跡もなかった。
 そして、気晴らしに向かった繁華街で、厳選された暗殺舞台の面々が、若い女性をはべらせて豪遊していたのを目にしてしまったのである。
 ここまでの証拠が揃えば、何をされたかは、鈍感なところがある速水にも分かった。
 速水は「部下」を総動員し詐欺師たちを捕らえ、本物だと評判のグループへのルートを喋らせた。
 故に平口の前に座ることができたが、連中の不用意な豪遊のために、投資した金は返ってこなかった。
 失った数千万円が、交渉における致命傷になるかも知れないが、もはや退く道はなかった。
「暗殺詐欺。ごくごくありふれた話ですが、表沙汰になることは滅多にない手口ですな。まさか暗殺話で詐欺をされたと訴えることもできないし、マスコミに流すことも不可能ですからね。後の報復を考えない向こう見ずが、よく使うんですよ」
「お恥ずかしい話です。……しかし、平口さん。あなた方は『本物』だと聞きました。口先だけの連中の言葉ですが、切り落とされた自分の耳を見ながらの叫びが嘘だったとも思えません」
 速水は深々と頭を下げつつも、威圧感を隠さず脅しを滲ませた。
 しかし平口は、その態度には怯えず、というよりは、まったく威圧が存在すらしていないとでも言うように平然と流し、自分の右手の人差し指と中指を立ててみせた。

 

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