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サスペンス

モノクロビオラ 10章

   

模造線路に関わっている人物、鹿島利衣の入院しているとされる病院に向かった倉耶彰久。
しかし、そこに彼女はいなかった――。

深まっていくばかりの謎に倉耶がとった行動とは――。

 

 色を失っていないということは、確固たる意志を持って生きているということである。
 これは僕が勝手に作った解釈であり、そもそも『色の有無』自体も曖昧な指標でしかない。ただ、はっきりと感覚として残るのである。
 彼女は――櫻庭慧子は、今の状況にある種満足感のようなものを持っている。春菜さんが言ったように、僕が彼女に対して、入院しなければいけないほどの精神的苦痛を与えたのであれば、それは少しおかしな話だ。
 会話の中で探ることは可能だろうか――
「あの――」
 僕が口を開くと、
「待ってください」
 彼女は手の平をこちらに向けて制止した。
「薬を飲ませてください。時間なので」
 そう言って、櫻庭慧子はテーブルの上に置いてあるポーチから錠剤のシートを取り出した。何錠か口に放り込み、水でそれを飲み込む。
「……大丈夫です。続けてください」
「その前にひとついいですか。棚にある薬とポーチの中の薬、それはなぜ分けているんですか?」
 その質問に対し、彼女の目が少し泳ぐのを確認した。僕が感じた違和感は、やはり違和感と捉えて間違いなかったらしい。
「量を間違えてしまわないよう、その日の分だけポーチに移してるんです。それだけです」
「そんなに、頻繁に処方内容は変わるものなんですか?」
「は?」
「ああいえ、ちょっと気になっただけなので」
 これで、彼女が嘘をついていることがほぼ確実になった。
 彼女の反応からして、処方内容はそう頻繁に変わるものではない。
 少なくとも、その日に飲まなければならない薬の量を忘れてしまうほどではない。
 つまり、わざわざポーチに薬を移しているのは、別の理由があるということだ。
「処方について詳しく言うことはできません。プライバシーがありますから」
 そうは言うが、棚の中の薬を見せてくれたのはプライバシーに触れなかったのだろうか。
 僕はこの辺りで引くべきだと判断した。ここで深く追求し過ぎて先手を取られては困る。
「ごめんなさい。確かに、あまり質問ばかりするのもよくよく考えれば失礼なことですよね」
「わかってもらえてよかったです」
「じゃあこの辺で、僕は失礼します」
「釈明しようとはしないんですね」
「釈明は、いずれしますよ。ただそれは、過去を忘れているだけ、という可能性がなくなってからです」
 彼女は何か言いたげな表情を浮かべていたが、次の言葉を待たず、僕は病室を後にした。
 病室を出てすぐ、僕は春菜さんにメールを送った。
『櫻庭慧子さんに会ってきました。これから外出するようだったので、少ししか話せませんでしたけど』。この内容に対して春菜さんは、『外出? 彼女は病院から出たりしないよ。そういう精神状態なんだから』。思った通りだ。櫻庭慧子は春菜さんに嘘をついている。
 ポーチに薬を移していたのは、外出することもある、という証拠で、そうでなければいちいち棚から薬を移したりしないだろう。
 外出というのは聞き間違いだったのかもしれない、と春菜さんに返信して、僕は病院から出る。そして次にとった行動は、薬の処方について調べるという至極単純なことだった。
「向精神薬のうち、不安や睡眠障害等に対し処方する頻度の高いものについては、上限を 30日……」
 加えて、同系統の薬は同時に処方されることに制限のあるものが多い。
 あの棚の中の薬の量を考えると、それらの制限を全てクリアしているとは思えなかった。
 外出できないと春菜さんに嘘をつき、外出先で別の病院に通い薬を処方してもらっている。そう考えると一応の辻褄は合う。
 わからないのは、なぜそんなことをする必要があるのか、という点だ。
 6年前の事件の真相に近づいたかはわからない。ただ、パズルのピースがひとつずつはまっていく感覚はあった。
 次は、もうひとりの女の子、鹿島利衣に会ってみよう。

 

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