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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】11

   

 杜坂は御影の眼差しを否定した。正義感あるその眼に耐えがたい苦痛を感じたのだろう。

 だが、御影も反論する。それほど楽な生き方をしてきたつもりはない。正義感は自分のいる世界がそういう場であると言っている。

 杜坂にはある魔力のような魅力があるから、ついてきている仲間がいる。それがたとえ犯罪を肯定していてもだ。

 御影と輪都は決して悪事を掴むための手ではない。耳を傾ける言葉なんて何一つとしてない、と御影は輪都に言いきかせた。

 しかし輪都は黙り込んでいた。

 

 杜坂は大笑いした。「そうだ、この犯罪にだ…」

 御影は目を細めた。

「御影くん、きみの敵意ある眼差しは実に心苦しい。やはり正義面した不自由ない側の世界にいる者の言い草のようだな」

 最後のほうは静かに説き伏せるように言い放った杜坂だった。

 御影は不自由ない世界で暮らしていただろうか。何度も社会に挫折しそうになり、命の危険と向き合って闘ってきた。探偵という職業柄のせいだろうといっても普通の仕事には変わりない。

 それをまるで特別な善と悪の狭間で佇んで、組み分けしているような言い方に御影はひどく遺憾に思った。

「不自由があるから、ひとは前向きに歩んでいるんじゃないか。あなたたちのやり方は、悪事によって自由を得ようとしている。わかっているはずだ、悪いことをしているって自覚を持っているんじゃないか、ほんとうのところ──」

 探偵という職業病にかかったかもしれない。御影にも仲間がいる。探偵事務所、家族、それに恋人、輪都だって今は自分とおなじ境遇にある。

 卑屈なやつでも己で悪事かどうか判断はできる。その手は勤勉さを育むためにパソコンのキーボードを打ち込んでいる。

 決して悪事を働くための手ではない。ぜったいにこいつらの言葉に耳をかすわけにはいかない。

「輪都、杜坂の言うことを聞くな、この男には妙な魔力が取り付いている。これだけの若者に支持されていることがその証拠だ。犯罪を肯定してついていっているんだからな」

 輪都は静かに黙ってうつむいていた。己にとって真実とは何か、まるでそれが見えておらず、いや急に濃霧に迷いこんでしまったようだ。

「おい、おまえ自分がいまなにを考えためらっているのかわかっているのか?」

 御影は濃霧に迷い込んで耳すらふさがっていた輪都に呼びかけ手を伸ばして掴み引きずり出した。

 助手の心が揺らいでいるような気配が纏わりついている。

 はっ、と我に返る輪都だった。

「別にそそのかされたりしてません。ちょっと…杜坂さんの言葉よりもここに集った若い人たちというより僕と同年代前後ですよ、御影さんあなたも…これって杜坂さん以外は次世代の社会を築く者たちの闘いなんじゃないんですか…。それがいまこれだけの数が大犯罪に手を染めている。それが嘆かわしいだけですよ」

 御影は眉を顰めた。そんな同情心がこの輪都にあったとはしらなかった。普段の冷静で無感情なやつと思っていたが、こいつなりの生き方というものが金庫よりも硬く壁を作っていた。

「輪都、俺たちはガーベラと敵対する運命だ。決して屈するな。耳もとで囁かれても耳をふさげ」

 はい、と輪都は御影の言葉に応じ手枷のままだが座している状態でメンチを切っていた。

「ほほう、俺の目の前でよくもそんな宣戦布告を。まぁ、いいだろう。第二のハッキングは東京のやつらに準備が整えばできること。場所を限定されないために、この第二に茨城から侵入させて捜査を混乱させるのが目的だった。そして…」

 そこで言葉を切った杜坂だった。

 御影は即座に杜坂の思考を読みとった。「輪都を使い捨ての駒にし、ハッキング成功ののちおまえたちはトンズラという計略を立てている。輪都を犠牲にしようと考えているんだろ…ちがうか」

 杜坂は苦笑しながら、どこか“惜しい、いい線いっている”とでもいいたげな顔を浮かべていた。

 それは御影の推理に穴があるということだ。「なんだと…」

 てっきりその手はずで輪都を勧誘したものと思われたが、当たらずとも遠からず、そんな歯がゆさを杜坂の妙な態度から脱力して、「ちょっとちがうかな」と御影に言った。

 その“ちょっとちがう”、とはどういう意味なのか、回答者を惑わし、翻弄させる物言いは癇に障る。

 輪都は驚嘆した。じっと言葉を失いながらも杜坂を見据えていた。あまりにもおぞましき計略に嵌るところを、御影が現実に引き戻してくれたのだから。もし一人でいたら何がよくて悪いのか、その判断を根こそぎ脳裏や心の底からすくいとられ、きっとそのまま操作されるところだったろう。

「おまえのパソコン借りるよ、そうすれば足跡は輪都くんのパソコンでハッキングした証拠になる。遠隔的でもいいが、直接このパソコンから侵入してしまったほうが楽だからな。なんせきみは今、拘束にあっている」

 杜坂は余裕の笑みで輪都のノートパソコンを手にしていた。「おい、これで」

 そのまま輪都のノートパソコンを無造作に手渡した。手渡した相手に驚いた。草村だった。

「オッケーっすよ」

「なに、おい、草村とかいったか…、そんなスキルがあるのか」御影は問い掛けた。

「まぁね、ちょちょいのちょいだよ、えへっ」草村のふざけた態度と軽口が癇に障る御影だったが、時間は稼げると思った。

 

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