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ハードボイルド

前園珠里探偵物語 夜の顔、昼の顔①

   2018年5月18日  

珠里と相楽 あざかの女同士の対決。
しかし、相楽 あざかには秘密があった。
『夜の顔、昼の顔』第一話。

 

 
 よう、作家先生様。お久しぶりじゃないか。見たよ、小説。うちのハジメなんかげらっげら笑ってて、相当ウケてたよ。よかったじゃないか。ただまあ、うちのスタッフをああいう風に使うのは……なんだい、深刻そうな顔をして。打ち切りがかかってます? この話に? へえ、大変だね。え、なんだい、いきなり土下座なんて。なにかとっておきの話をしてください? やれやれ困ったもんだ。とっておき……とっておきの話ねえ……。女は怖いってのならあるけどね。まあ、あんたに書けるかどうかはわからないけど。
 

「じゃあ、行ってくる」
「うん、気をつけて。久々の休みなんだからゆっくりしてきなよ。俺もこのあと仕事行くから」
「悪いなあ、わたしだけ。がんばって」
 相楽 あざかは婚約者の角田 たけるの頬にキスをすると、軽く手を振って超高層階用エレベーターに向かった。これから大学時代の友達と超人気店でランチだった。健の名前を出して一年待ちが一週間待ちになる程度には、健は名が知られている。第二次ITバブルに沸くこの国で、のんびりした性格の健は、どうやってかしらないが数年前に一人立ちしてからアプリ関連の会社をあげて、儲けている。あざかが今、出てきたフロアに、彼ら以外住人はいない。あざかが文字盤を手のひら側に向けた三百万の細身の腕時計も、通勤用のこぢんまりした外車も、今、身につけている物もすべて健が買ってくれた。総額はかるく一千万を超えている。健はここのところ異様に羽振りがよかった。そのため、あざかにとって願ってもないチャンスが到来していた。
 上昇してくるエレベーターが、珍しいことに途中の階でしばらく止まる。住人が間違ったのだろうかとあざかは思ったが、そうじゃないと彼女の直感が囁いた。二つあるうちのひとつのエレベーターが、下層への扉を開いたが、あざかはそれには乗らず、閉めるを押して、途中で止まっているエレベーターが上がってくるのを待った。ほどなくして到着していた下層行きが下っていく。ぽーんと軽い音がして到着して、開いたエレベーターには誰も乗っていなかった。あざかは乗り込むと、すうっと息を吸い込んだ。様々なにおいがするが、直前乗ったのだろう、ほこりっぽい衣類のにおいと汗のにおい、安物のシャンプーのにおいがした。
(この銘柄のシャンプーは女……?)
 あざかは時計を見るふりをして、一瞬の沈黙をやり過ごし、彼女の〝捜査〟への侵入者の排除を念頭に置いた。今、健に勘づかれるわけにはいかなかった。

 

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シリーズリンク

前園珠里探偵物語 夜の顔、昼の顔 第1話第2話第3話

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