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風刺 / ユーモア

ドリームメーカーズ(下)

   

「予想通りだ! やっぱり連中、俺らの仕入れた筐体を使ってるぞ!」
 と、目前の光景を見て興奮する早田を引き合いに出すまでもなく、阿久沢は完璧に臨戦態勢をなっていた。
 何しろ、視界のあらゆる方向に、「おいしい」パチンコの筐体や スロット、カードゲームなどのギャンブルが展開されているのだ。
 既に様々な国の人間が張り付いているが、幸い台には十二分に余裕がある。
 何せ、この船は可能な限り全ての部分がギャンブル用として改装されたカジノ船なのである。
「公式戦」が日本の領海を抜けた時点で開始されるあたり、この船が明らかにカタギでないことが分かる。
 阿久沢たちは、こうした自らに縁のある施設でギャンブルに興じることで、合法的にその欲を解消することができた。
 実際、阿久沢も、国内の表裏の博打場ではなく、「ドリームメーカー」と付き合いのある海外のギャンブル会場でのみ勝負するようになっていた。
 賭ける額も自在に調整でき、仮に勝っても暴力で反故にされる心配もなく、しかも法律的にまずくなる可能性もほぼない。
 国内の勝負をふいにしてもあまりあるほど、この船や「指定」の博打場はおいしかった。
「よっしゃあ! 早速確変だ! ほら、阿久沢、お前も続け!」
「了解です、社長!!」
 右利き用と左利き用のパチンコ筐体が並び合っている中間点に陣取り、二つの筐体に玉を流し込んでいた早田が歓喜の叫びを上げた。
 それだけではない。同じく筐体についている上役たちも次々に当たりを出していく。
 無論レートも「裏流」であるため、彼らの懐に入る金は相当なものになるだろう。
 そう、結論から言って「ドリームメーカー」が通じているギャンブル船や裏のカジノなどは原則として相当出やすく設定されている。
 非常識なレートの台にハマり込んで大きい会社を潰してしまった社長さんの話も聞くことがあるが、少なくとも「ドリームメーカー」の連中は決してオケラにはならない。
 一月分の憂さを晴らすべく遊び倒し、その結果勝利とは無縁でも、月給換算で二十万円以上の金を持ち帰ることができるほどには甘い設定だ。
 当たればどこよりもおいしく、しかもローリターンとあれば、他の賭場に注ぎ込む金を集中投下するのも当然で、阿久沢たちが他の博打遊びを控えているのにも、このあたりに理由があった。
「やっ、やった、やりましたよ社長! 俺も当てました!!」
 そうこうしているうちに後輩の伊丹がカジノの筐体を前に小躍りしている。
 完全に自分が一番のモードに入っている阿久沢たち同僚は、やや苦々しさを正面に出しつつ、それでも祝福と納得の気持ちを忘れない。
 伊丹が前回の勝負から一月の間、ずっと自分の稼ぎにはならない残業と、町内美化活動に取り組んできたのを知っているからだ。
 技術に差が出ない勝負を左右するのは運であり、その幸運を得るには日頃から「無私」の行動を取る必要があると、阿久沢たちは早田から何度も聞かされていた。
 ギャンブルで生活を壊すほど視野が狭くなりがちで、しかも自分勝手な阿久沢だったが、こう毎度毎度誰よりも熱心に働いた者が勝つのでは、信用しないわけにもいかない。
 暇を見ては人の手助けをしたりと、積極的に「ポイント」を稼いでいた。
「うーん、難しいな、これは。とりあえず一旦上がって機会を待ちますわ。大丈夫ですよね、社長」
「もちろんだ、営業課長。ボーナスと役職分が飲まれちまったのは我々としても残念だが、今は休んで力を回復させるといい」
 相変わらず両手で筐体を操り、恐ろしいほどの当たりを繰り返している早田は、阿久沢の「申し出」に応じた。
 権利と言うより半ば義務の形で「博打」がついて回る社の方針から、勝負をしないというのは認められないし、形式的に千円だけ賭けておさらばというわけにもいかないので、チェックを入れているのである。
 もっとも、高収入と博打を両立させてくれる夢のような環境を拒む社員など一人もおらず、この取り決めはまったく形式的なものに過ぎない。
 休む阿久沢にしても、ひとえに次の勝負で勝ちたいがために場を離れるのだ。

 

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ドリームメーカーズ 第1話第2話

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