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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】19

   

 中国に住むプライベートバンカー。チョム・リンヒャン(男)。パスポートは本物だが、名前を元は日本人。

 改名後、永住権を得てもう数年暮らしていた。杜坂とは同郷の幼なじみで施設育ちだった。

 数年前から、ガーベラのメンバーであるチョム・リンヒャンは海外移住している。スイス銀行のようにプライベートバンクを経営している。

 守秘義務によって保護される。それが魅力的で数年前からの計画に杜坂は考えていた。送金されても法的にその要請を撥ね退ける力があるからだ。

 プライベートバンカー、と呼ばれるものだ。一人で無期限責任を有するプライベートバンカー、経営に参画している銀行であれば名乗っていい。杜坂はチョム・リンヒャンと提携し、というよりも関係性は幼なじみを超えたあくどい密にある。

 それがいま途絶えようとしている。

「日本ではどこかの国のどの銀行に送金されたことが判明しても、名義人まではわからない」

 黒田が声を荒げながら登場した。

 杜坂は同じ元警官でありながら不正に手を汚していたことをこういう純粋な若い刑事を見ると焼きもちをやいてしまう。

 自分も昔は正義をかざしながら民が平和に暮らせるようにと切望して公務についていた。

 人間の心の欲望には勝てなかった。ギャンブルに嵌り、奈落の底へと落ちていた。

 いけないのは暇な時間があるからだ。いくら仕事が忙しくても、どこかで発散しなければならない。

 ゲームやテレビ観賞、外にでも田畑が広がる光景。そこにギャンブルを教えてくれた気のいい地元の人たち。

 普段村を守ってくれる駐在人。だから世話をしてくれるようになったが、杜坂はそれが仇になった。

 わるい知識はあったが、警官という正義心が抑制していた。いくらでもそれをふんだんに策略に企てることができる立場であったからだ。そこで、ついに友人であるチョム・リンヒャンに密に相談した。

『ある策略を思いついた。五、六年はかかる大掛かりな計画だ』

 チョムは半信半疑で国際電話を受けていた。『いいよ、やってみよう。おもしろそうだ』

 二人の計画はそのとき煙りがたった。

 伯田警部補が腕を組みながら冷静に現状を把握して、叱責した。

「杜坂さん、その名義人の開示請求することができるかどうか、マネーロンダリングのような不正資金の疑いがあっても行員は名義人がただしく偽り性のない者であれば開示を撥ね退けることができる。事件性があるというのであれば連邦警察に通報するしかない。そしたら開示しなければならない、そうだろ」

 杜坂は次々に現れる刑事の詰問に探偵だけではなく、完全包囲されていることに気づいた。

「参ったな、だが、まだ打つ手はこちらにある。送金されたのは…」

 杜坂が言いかけたところを政木警部の静かで厳かな口調が鋭く刺した。

「送金先は中国でしょ、あなたが今から向かうのは上海。そこから香港にいるチョム・リンヒャン、元はあなたとおなじ日本人。永住しているから名を変えて過ごしているみたいじゃない。今ごろ、中国金融犯罪組織があなたの友人のところに不正送金されたマネーロンダリングの要請を執行しているんじゃないかしら。少なくとも、あなたがこのまま飛行機に乗って香港にいる友人に会いにいっても無駄。彼は逮捕されている」

「なんだと!」杜坂は驚愕だった。すでにそこまで追い込まれていたことに気づかなかった。

 氷室のいった先手を取ったのは、こういうことだった。

 

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