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伝奇時代

生克五霊獣-改-50

   2018年6月19日  

 姿を失った夢路が、皆の前に姿を現した。
 おぞましく変わり果てた姿でさえ受け入れようとする甲蔵と、受け入れる事が出来ない夢路。
 夢路がとった未来は……。

 

 里に平和が戻ろうと、屋敷はいつまでも暗い雰囲気が漂い続けていた。
 里の民から、各自の屋敷が出来たと知らせが届いたのは、晴明が亡くなってから翌年の春を迎えようとしていた矢先の事だった。
「皆、大事な話がある」
 皆、それぞれ失った身体にも徐々に慣れ始めていた頃だった。ただ、全身の皮膚を失った夢路だけは未だその姿には慣れず、全身に布を巻き、頭巾で顔全体を覆った姿で皆の前に現れた。生克五霊獣の法を使ったあの日から、夢路が皆の前に現れたのは初めてのことだった。
 そして、その姿に皆が凍りつくように静まり返った。
「夢路……」
 と、最初に言葉を発したのは兄の獅郎であった。夢路はその声になんの反応も示さず、葛葉の脇に座った。
「夢路よ、大丈夫か? 無理するなよ」
 夢路は、コクリと頷いた。
 その姿を見て、衝動的に立ち上がろうとした獅郎を葛葉が制した。
「座りなさい」
 獅郎は辛そうな表情で、ひとまずそれに従った。
「これは、夢路からの要望である。夢路は本来、甲蔵と北方の地を治めるはずであった。だが、先日の一件により姿を失い、それを放棄するという。夢路はこれから、私とここで暮らすことになる。甲蔵には、別に娘を世話するつもりだ。そして、その間北方は……」
「嫌だ!」
 葛葉の声に被せるように、甲蔵が叫んだ。
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 絶対、嫌だ! どんな風になっても、夢路は夢路だし、夢路と一緒に俺は居る!」
 普段から余り大声を上げない、何処かツンケンした風の甲蔵が叫んだことで、その場はしーんと静まり返った。皆が言葉を失い、甲蔵を見ていた。
「俺は、夢路と一緒にいるんだ。ずっといるんだ。ずっと、夢路をお嫁さんにするって決めてた。北の屋敷なんて要らないし、ここにいなくてもいいし、里から出てってもいいから……俺は、夢路といる……」
 葛葉は、はっとした。この場にいる誰よりも年は若く、旬介と同じように赤子の時からこの里にいた。そして、忙しかった葛葉の代わりに乳母のように育てていたのは夢路だった。夢路は甲蔵にとって母であり、姉であった。
「甲ちゃん……ごめんね。今の私じゃ……きっと貴方を怖がらせてしまうから……」
 夢路は顔を手で多いながら、はらはらと泣いた。
「俺は怖くなんかないよ。だって、夢路は夢路だ。傍に行ってもいいかな?」
 夢路は泣きながら、コクリと頷いた。
 甲蔵は夢路の顔を覗き込んだ。布に包まれたマネキンのような姿がそこにあった。目元が涙で濡れて、ぐっしょりとしていた。その布の隙間から、ぎょろっとした目玉が見えた。
 本来なら恐ろしくも思えるその不気味な相貌ではあるが、不思議と甲蔵には怖くなかった。
「うん、夢路だ。やっと会えて嬉しいな」
 夢路は、ぎゅっと甲蔵を抱きしめた。頬に触れる布越しに、夢路が泣いているのがわかった。
「夢路、もう泣くなよ。ずっと一緒だからね」
 その様子を見守りながら、葛葉が夢路に声を掛けた。
「今まで何度か聞いたが、もう一度言おう。夢路よ、甲蔵と北方の屋敷に行くか?」
 夢路は少し躊躇った。
「夢路、行こうよ!」
「でも、私はもう二度と人前に姿を出すことは出来ません……」
「いいよ、そんなの!」
「でも……」
「夢路、お前は本当はどうしたいのだ?」
 葛葉は、優しく問うた。
「私は……」
 どうしたいのか?
 聞かれて頭に浮かんだのは1つ。

 死んでしまいたい……。

 化け物のように成り果てた姿に、夢路は心底絶望していた。
 自分が化け物のような姿になってまでも、まだ生きているからこそ甲蔵が自分に依存しているのかと思うと嬉しい反面絶望すらあった。
 いつか、この姿を……本当の姿を見たら、甲蔵であっても怯え離れていくと確信していたから。夢路には、そのそう遠くない未来が酷く辛かった。
「私は、やはり……許されるならこの屋敷の離で、1人余生を過ごしたいです」
 もう、これ以上絶望に怯えたくなかった。甲蔵が変わらず求めてくれたこと、最後に抱きしめてあげられたこと、それだけで夢路は満足だと自分に言い聞かせた。
 だが、納得出来ないのは甲蔵の方である。
「なんでだよ! 夢路! 俺のこと、嫌いになっちゃったの?」
 怒りにも悲しみにも似た声を、甲蔵はあげた。
「甲蔵、やめなさい」
 葛葉が止めても、甲蔵は夢路への問い掛けもやめず、終いには泣き出してしまった。
 甲蔵を止めたのは、獅郎だった。
「夢路。お前は、それで本当にいいのか? それが、今のお前が望むことなのか? 俺は、なんにもしてやれないし、やれなかったけど……できるなら、お前が幸せになれる方法を考えてやりたいんだ」
 兄の言葉に、夢路は頷いた。

 

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