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ミステリー

スクープはいとも簡単に1

   

 コンプレックスの塊のような快場輝紀は記者として働いていた。そこでは雑務ばかりで本来の手腕である取材をいっさいさせてもらえずにいた。

 田舎者で大学も行かず彼女の美桜と暮らしはじめるが、仕事といえばアルバイトだけしかせずに自分の好きなことをしていた。

 それがスマートフォンを活用した取材だった。世間を撮るようになりそれをSNS上に投稿していた。

 腕を買われて報道部の上席からスカウトをされた。そこでナンバーワンになるためほかの有能な記者に負けないよう奮起する。

 いつしか“抗い屋”のレッテルを貼られるのだった。

 そこへささいな事件が内部で勃発した──
 

 

 コンプレックスの塊の俺が、SKY634スカイムサシテレビ局の報道部に所属している。こんな大手テレビ局にかかわっているなんてありえない。でも、それは現実の誓約の中で生きている。

 目覚まし時計をかけてもベルを止めて二度寝してしまうようなズボラな性格だ。その癖はいまだに直らない。

 田舎の地元の高校を卒業後、東京へ上京した。特にやることがあるわけではない。東京に出ればなにか見つかるかと思い田畑が広がる故郷から飛びだした。

 夢と希望を持って毎日期待を弾ませて生きている。だが自分がなにもできないことがすぐにわかった。アルバイトの仕事ではない。暮らすために働くのは苦でもない。それなりに真面目に勤めることはできる。なんでもそうだ。

 なにか自分の目標というか、成し遂げたい夢につながるきっかけというのがどれもこれもちがう。それを見つける時間がただただ過ぎていくだけだった。

 二年間、うだつが上がらない暮らしに両親から指摘された。うるさい電話が毎夜鳴り響く。小言の毎日にいらいらしていた。

 ぼんやり過ぎていく時間を無意識に認めながらも指一本動かすこともしない。青い空にただよう雲よりもゆっくりと浮遊している無意味な存在に、いつしか魂はぬけていた。

「輝紀、また、空ばかり見て」

 快場かいば 輝紀てるき、21歳になった。彼女の美桜がいなければ自分を見失っている。

「あぁ、そうだな、つい──」

 彼女はいつものように絶え間ない微笑みを浮かべて俺に幸福をもたらせてくれる。現実世界に繋ぎとめてくれる唯一の存在だ。

 志野しの 美桜みお。情けない幼馴染と一緒に暮らしている彼女だ。大学四年社会学部専攻、将来に強い思いを抱いている。今は就職活動に熱をいれている。

 昨年度まで彼氏がプー太郎という最悪な恋愛事情にあったため美桜は自分がしっかりと主軸になって未来理想図を描いてい引っ張っていた。その健気で一途な思いに俺は毎日救われている。

 親から咎められていた美桜だったが、たったひと言によって跳ね返してくれた。

 輝紀が好き。それで親を黙らせたのだった。俺はたじたじになっていたが、自分がいつ殻を破り社会に馴染めるのかと顔が引き攣っていた。

 東京では別々に暮らしていたのに一緒に住むことを両家族より承諾をしてくれた。

 これは美桜の快心のひと言によるものだった。

 美桜に救われ、美桜に養ってもらう。男として最低な次元にいるのに、俺を傍に置いておくのはペット同然に見えているのかもしれない。雨の日に捨てられて震え鳴いている子犬を、女子は大いに同情心が駆り立てられ手を差し伸ばし胸に抱くのは自然な母性本能といえる。

 生活の安定は美桜によって立てられていた。一緒に暮らしているこの二年ほどだが俺にもちょっとした契機がおとずれた。

 テレビ局の報道部に今年の春から務めている。

 美桜よりも早く社会人となった。これだけは俺が彼女に劣っていたすべての面において、唯一勝っている事実だ。

「ご飯食べて」

 彼女の手料理は俺の口にあっていた。素朴で田舎でよく食べていた郷土料理といえば聞こえはいいだろう。だが、それがパッとしない食卓であろうと俺は幸福に包まれていた。

「うん…」

 彼女にいつもそっけない返事しか返せない。今は気負いはない。報道部で働いている事実がある。俺のほうが社会人としては先輩だ。学歴はない俺に美桜はすこしは認めているだろう。

「まったくもう、いくら報道の腕を買われてスカウトされたからって、結局SNSで投稿しただけの素人のようなものでしょ。ほかの人たちに迷惑かけないでね。いつまでもつかわからないけど、しっかりと将来について考えたほうが幾分ましだと思うよ。輝紀のお母さんにも言付かってるんだから…」

 ガミガミガミガミ…と母親のようなことをいうようになってきた。美桜に仏頂面をみせるも言いかえせない。おそらく俺がさきに社会を経験しているから嫉妬している。

 呆然と空を見上げているのは将来が見えないからだ。俺はそれが見えるまで青い空を眺めているだろう。傍から見たらたしかに希望のない人生を歩んでいることは予測ができる。

 俺には俺の生きる道がある。それを見つけるために青いキャンバスにさまざまな模様を描いているだけだった。

「ちょっと天気いいし、ぷらっと散歩でもしてくる」

 耳が痛くなったから言い訳をするように逃げ出した。小一時間、街を歩いていた。

 空気も澄んで呼吸をするたびに肺を清めてくれるような感じがする。
「気持ちがいい」

 ある公園へ向かった。これでも報道部に所属した新米だ。そのため、とっておきのスクープをものにするため、ぷらっとしたほうがいいときもある。

「美桜…、休みの日でもこうやって様子を伺いにきているんだぞ」

 面と向かっての成果ではない。眼前に見つめるのは公園にいつもと変わらないおじさんが一人ベンチで座っていた。その気になればこのひとは平日でも土日でもいつもそうやっている自由なひとだ。

 時間の束縛もなく、美桜のように躾けるような小言を聞くことがない。自由なおじさんを取材してひと月ほど経つ。なにやら他人に言えない悩みを抱えていることがわかった。

 それを聞き出すために俺はこうして踏み込んでいる。おじさんの堅く閉ざされた心を開くために。

「やぁ、きみか、こんにちは…」おじさんが俺に気づいた。いつも少し離れたところでも声を張って愛想良く言葉を交わす。

「こんにちは」

 相変わらず巨人のキャップをかぶっている。俺は微笑み返し、今日こそはその悩みとやらを話してもらうぞ、と決めた。

 巨人の帽子をかぶるそのおじさんは空き缶を拾っていたが、ひと息いれているところだった。

 俺より遥かに長い人生を生きてきたおじさんは、ホームレスだ。

 そんな単語を聞くたびに、俺の胸中はかすかに痛んでいた。

 

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