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ミステリー

スクープはいとも簡単に2

   

 向井田という先輩記者と対峙する。ナンバーワン記者としてほかの者を罵るほど嫌な男だった。罵り屋と呼んでいた。それだけの地位を得ていたのだ。

 事件の真相を問いただすために向井田に直撃した。確証は得ているが、向井田は知らぬ存ぜぬを貫き通す。

 それでも証拠があると快場は突きつける。そして、上席に言うことを宣言した。

 しかし、その上席は…

 

 向井田は一人で喫煙所の個室にいた。俺は煙草は吸わない。だから喫煙者に吐き気をおぼえながらもその扉を開いた。

 この男がなにをしたか、俺はわかっている。

「なんだ、おまえ煙草すわないだろ」

 白い煙を嫌悪むき出しに吐き捨てている罵り屋の第一声が身震いさせる。

「あなたに話があります」

 俺は敬語を使うときとそうではないときがある。ほとんどの先輩には敬語は使う。この男だけには仕事のとき以外に衝突する場合はタメ口調にすることにした。理由、むかつくからだ。

「なぜ、あなたが俺のパソコンを使ったんですか?」

 いつ誰がなにをしたかログが残っていた。こう見えてもパソコンには詳しい。幼少の頃からパソコンを使いこなしていた。俺がそこまでのスキルを持っているとはイメージからして思っていない。どちらかといえばスマートフォンばかり使っているゆとり世代の若輩者と思われているだろう。

「俺は自分のパソコンで、いつだれが使ったか常にチェックしています。そこでおかしな記録が残っていた。俺が帰宅した後にパソコンを使った者がいる。その日の帰宅前までさっきの集計のエクセルシートは存在していた。俺が帰宅後に何者かによって削除された。その時間帯が深夜0時過ぎだった。だれもいない時間帯に、俺のパソコンは起動されていた」

 不敵な笑みを浮かべたままどこか硬直している先輩だった。図星だと俺は思った。

「まちがって消しただけだろ…、おまえが…、ひとのせいにするなよ。だいたい深夜のその時間帯は端末の更新作業で自動的に行われる。その記録じゃねぇの」

 向井田は適当なことを正当化できる。嘘を肯定させるだけの話術をもっている。人生経験の差がこういうときのしかかってくる。

「あなたならデスクまで取り入ることはできますよね。人望もありナンバーワンの実力者だ。新米のパスワードとログIDを知る方法はいくらでもある。後輩指導とか名目つければたやすいからね…」

 はっぱをかけるように言ったつもりが無言の向井田に腹が立った。

「どうなんだ、もしパスやIDを聞き出したならそうだろ?」

 一方的に問い詰めていくが向井田は表情ひとつ変えずに俺の推測に耳を傾けている。

「ほう、よく気づいたものだ。意外に報道よりも探偵になるべきじゃないか」

 いらつく笑みを浮かべる男だ。その余裕の顔に罪の意識はない。

「探偵じゃない。俺は報道の世界に身を置いている」自分の意思をはっきりといった。「あなたとおなじだ」

「そうかい…。俺はおまえが消えてほしい。そのために削除した。それと気に入らない。なぜいつも俺を見る?」

 妙な質問だった。それは憧れあってのことだが、そんなことは言えない。気に入らないからだ。俺を罠に嵌めたこの男に、そんなミーハーなことは言えない。もしかしたらコミュニケーション力の亀裂を修復することができるかもしれない。

 他人の仕事を汚すようなこの男を敬うことはできない。こびへつらうこともできない。この男はまちがいなく打破するべき相手だ。

「あなたが気に入らないからだ。いつかナンバーワンの座から引きずり落として俺がナンバーワンの記者になる」

 鼻で嘲るように肩で笑い、煙草を灰皿に押しつぶして火種を消した。充分、体内に煙をためこんだようだ。早々につぎのスクープ記事を狙うため去ろうとしている。俺は無言で耐えるしかない。

「証拠がないだろ、集計シートを削除したのがほんとうに俺かどうか…、わかりっこない」

 向井田の勝ち気な態度はそこだった。証拠がないと自負していることだ。

「警察沙汰にすれば鑑識が指紋採取する…、そうすれば俺のパソコンにあなたは触ることがまずない。もしそれで真新しい指紋が浮かび上がったらどうする? それと内部の天井に取り付けられている防犯カメラ、あれは監視カメラでもある。まさか犯人捜しのためにしっかりと活用されるとは思ってもみないでしょう。これは立派な証拠だ」

 俺は勝ち気に笑みを浮かべる。

「てめぇー!」

 向井田はいらついて俺の胸倉を掴み、その熱い眼は瞳孔が開いていた。鋭利な眼光は燃えている。焼き殺すぞ、恐怖に屈しろといっている。そんなことよりも煙草臭い息が俺の顔にかかり不愉快でしかたがない。

「あなたは追いこまれている。不正や違反をした者にはかならずその証拠や証明というのはバッチリと出てくるもんなんですよ。プロフェッショナルを舐めているのはあなたなのでは?」俺はずばり指摘できた。

 眉を翻すように胸倉から手を放す向井田は前歯が見えるほど上下の歯を噛みしめている。

「アンケート調査の集計を適当な数値に変えて俺が作成した正しい集計のプリントを差し替えて上に提出したのはあなただな」

 向井田の表情はこわばった。

「いいか、それをどうこうしようと関係はない。俺はこの部のナンバーワンだ。俺がいなくなったら困るのはこの部なんだよ。大ごとにしないためにおまえ程度の非力な者の言葉を上が聞き及ぶと思うな。特別なのはおまえではない」

 悪びれる態度も見せずに俺を脅迫してきた。てっきり罪の意識から膝をついて謝罪すると思ったが、そうすれば公言は避けるつもりだった。そんなつまらんことで立場をあやうくしたくない。

 これでも穏やかに仕事をしたいほうである。しかしあの最後の捨て台詞は俺の心の火に油を注いだ。

「覚悟しろよ。上に告げてやる。警察沙汰にして指紋採取、監視カメラの検証、それがすべての証拠となり、おまえを追い詰めていく。ここから消えるのは、おまえだ!」

 俺は誰もいない胸くそ悪い喫煙所の個室で咆哮をあげた。

 

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