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風刺 / ユーモア

俺たちのモクサン(4)

   

 生徒を「行動不能」にしての新規転入生の大量受け入れ、そして「自衛力」大幅削減。
 西川が目論む「流高改造プラン」は順調に推移しつつあった。それは、ブラックな警備会社との癒着や、新設されるグループ校への校長としての赴任などの利権とセットであり、その意味で西川は権力への道を進みつつあった。
 しかし、卒業式の予行演習中に、学校のあちらこちらでモク師たちが「営業」を開始したことを知らされる。その意図を感じ取った西川はいち早く彼らを潰そうとするが……。

 

「ありがとうございます、西川教頭。ウチの若いもん、いや、社員を二十名も受け入れて下さるなんて。奴らも喜びます。もっとも、直接感謝を述べるには結構な時間が要りそうですがね」
 校長室の座椅子に、その巨体を悠々と沈めた西川の前に、何人ものイカつい男たちが並び立ち、深々と頭を下げた。
 無論皆、身長二メートル近い西川よりは小さいが、体からにじみ出る迫力と言うか暴力性の類は、決して見劣りするものではなかった。
 何の知識がなくても凶相だと分かる顔つきにはしかし、心底からの笑顔が浮かんでいた。
「それは良かった。ま、我々もちょうど教室が大いに空いたところですから、大丈夫だったというのはあります。我が校に入ってくれれば退学はないし、いずれは卒業できる。高卒認定を取るよりずっと簡単ですな。ま、本校は元不良たちも多いですから、きっと気が合うかと思いますよ」
「ええ。そりゃあ、もう。我々は若いもんには常に丁重にって教えてるんです。何しろ、どこも人手不足ですし、我々のような業界は特にね。だから、絶対に学歴もいるわけでね」
 頭を上げたイカつい男たちがにやりと笑い返すと、西川もまたにやりと笑った。
 そのことが合図だったように男たちは「じゃあまた」と親しげに言葉を発し、校長室を出て行った。
 厳重に封をされた菓子詰めの箱を三つばかり、机に残した上で彼らは去っていった。
「紙ですか、固いのですか」
 入れ替わるように、身長百八十センチ以上もありそうな巨漢が校長室に入ってきた。
 パリッとした制服姿であり、腰にも手にも武器を備えているため、威圧感は普通のレベルではない。しかし西川はまるで慌てず「紙ですよ。ま、今回はこんなもんでしょう」と応じた。
「なんだ、連中も案外しみったれてますな。せっかく欲しいものをくれてやるってのに。これじゃあ、体よく『交渉』でもした方がカネになったかな」
「損して得取れですよ。仁科警備隊長。我々としても空いた教室を有効活用をしたいわけですからね。値を吊り上げるよりもベターを取った方が良い。『下処理』は進んでいますか?」
 西川の言葉に仁科は、窓の外を指差してみせた。その方向に西川が視線を滑らせてみると、やたらとゴツくて巨大な護送車に、いかめしい男たちが制服の少年たちを無造作に放り込み続けていた。
 それは「制圧」というよりも、袋詰めされたゴミを投げ捨てるような雰囲気があり、西川は思わず軽く吹き出した。
「国産じゃありません。旧東側の某国から払い下げて貰ったんですよ。実にシンプルで悪意的なデザインがたまりませんね」
「ふふ、まったくですな。『容疑』は? タバコってことはないでしょう」
「エロ本とエロDVDですよ。年頃ですからね。狙いを定めりゃ実に簡単だ。モクの仲間が商売替えしているらしいが、せいぜいネタになってもらいますよ。もうディレクターにも金渡しちまったからね」
 いかにもマジメで、家での監視もキツそうな感じの生徒たちを護送車に放り込む光景を笑って眺めつつ、仁科は計画が順調だと告げてきた。
 確かに、ニュースのワンコーナーではなく六十分番組を持たせるなら、それなりの分量が必要だ。メインは「最後のモク師逮捕廃業」で行くのは確定しているとしても。
「ま、もうタバコをやるような連中もほとんど学校にはいませんからね。しかし、腕のふるいがいはないでしょう」
「まったくですよ。新商品のプレゼンもしたいってのに……」
 と、笑顔でボヤいてみせるだけあって、仁科の装備は異質だった。
 やたらと分厚く刃のない、先や刀身にあたる部分がいくつも割れた刀のようなものを腰に差し、巨大なモップの先にギザギザのついた道具を持つその姿は、明らかに現代日本の警備員的ではない。
 どうやら江戸時代あたりの得物を参考に改良したということだが、効果は未知数である。とは言え、問題はそこではない。
「効果がある」と思わせられれば、誰かが道具を買う。そうなれば専売している仁科警備に大きな利益が入り、それは西川にもキックバックされるわけだ。

 

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