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ミステリー

スクープはいとも簡単に4

   

 おつかいを頼まれて快場は六本木へと赴く。プロデューサーに資料を手渡すと、妙なことを言われた。

 それは向井田のことだった。

 その話はとんでもない噂だった。その噂を聞いたことで快場は霧が晴れたように核心をつかんだ。

 これまでの疑念を晴らすことができるかもしれない。と快場は向井田の素行を調べることにした。

 

 聳え立つ六本木のビル群を見上げて実感していた。迫力満点のスカイツリーもすごいが、上京して二年経つというのに都心部に出掛けるようなことをひとつもしていなかった。あまりこのあたりに用もないため通り過ぎる程度だった。

 番組制作会社のプロデューサーに資料を渡して、しっかりとおつかいをすませた。

「それでは、失礼します」

「あっ、ちょっと…」プロデューサーが呼び止めた。

「はい、なにか?」

 おっと、出た言葉はひっこめられない。普通は敬語で返答するところなのについ油断してしまう。

「あなたのところの向井田って記者いるよね?」

「はい」

 さすがに有名人だ。向井田のスクープにかける思いは太刀打ちできないのが現状だ。番組制作会社にまで知られている。やりきれないな。

「あまりいい噂ないよ、彼…」プロデューサーの顔は困惑の色が混じっていた。

「どういう意味ですか?」

「彼は無茶しているようだ」

 プロデューサーはそういうがそんなことは承知している。尋常ではない男だ。

 日夜待機状態。いつでも出動できるよう機動力を保持している。その反面プライベートを犠牲にしている男だ。認めざるをえない。やつはナンバーワンだ。

「知っています。あのひとの努力は…」

 負けを認めたくないが、やはりほかの会社のひとに向井田でも同僚ではあるため悪くはいえない。

「そうか、なら彼の取材にたいする方法というのを知っているならなんとかしたほうがいい」

 耳打ちするように声をひそめたプロデューサーの証言は目を瞠るものだった。

「えっ──」

 とんでもない話を聞いてしまった。

 天性の運を持っている。神がかった嗅覚を持っている。そう思っていたというのに、これではあまりにも情けないじゃないか。

 ひとりでも疑念を抱いたということはそれはいたるところで暴発している。

「そうなんだよな、あまりにも現場にいち早く登場しているもんだから、不思議で…」

 プロデューサーの言いたいことはわかる。俺だけじゃなかった。誰もが疑問視することだった。プロデューサー以外にも疑問をもっているようだ。あまりにもスクープ現場にいるため運というだけでは解決できない。いくら犠牲を払って時間を費やして自宅にいないとしても、その覚悟は立派だが何かあると考えるほうが正解だ。

 報道部は向井田の活躍によって成果を他局にアピールしている。ここまでいち早く現場にいて警察の封鎖前に駆けつけ撮影することに成功している。これは脅威だった。だからかもしれない。疑問を抱かせる報道者の目。

“この男、何かしているんじゃないか”。

 報道を齧る者であればそう勘繰るのは必然だった。いつかは疑惑を抱かれる眼でみられ注目を浴びる嫉妬は、俺だけではなく同業者であればそう見ざるをえない。他者だからこそ向井田の領域に土足で踏みこんでくるものだ。

 それが記者の心髄だ。

 本人は気づいているのだろうか。しらないところで根掘り葉掘り調べられているともしらずに、昨夜も車内で寝泊まりしていたことをプロデューサーは知っていた。

 俺が抱いた違和感は、まさにそれだ。ほかの職場の仲間がもてはやされるから疑惑の芽の成長をとめていたが、やはり実りはあるようだ。

 プロデューサーに挨拶して別れた。

 

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