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ミステリー

スクープはいとも簡単に5

   

 一息いれながらデスクでコーヒーを飲みながら過去の栄光の記事をパソコンを通して見ていた。

「感動が感動を呼ぶ、か」向井田は見下すように俺を罵る。

「そうだけど…人々の心は社会の荒波に疲弊している。そこに少しでも感動して、共感し称賛することで自分をも励まし明日の糧にする。ひとの心とはそういうものだ。あなたがしているスクープのネタとはわけがちがう」抗い屋が罵りを跳ね返した。

 向井田は押し黙って睨みを強めていた。眉間の皺がなによりの証拠だ。

「ふざけるな、そんな甘っちょろいことをネタにしても、おもしろみがない。世の中には傲慢な人間を見下げることがなにより恍惚となり、高みにいる気分に高揚することが重要なんだ。自分はこいつとはちがう。自分は正しい。そう思うことで明日の糧になり活力にしている。他者を罵ることで自分はすくわれている。内心はみんなそう思っている。俺はそれを浮き彫りの型に嵌めこんでいるだけだ。思い知らせてやるよ、俺とおまえの格のちがいをな」

 ほくそ笑みながら向井田は、抗う者を最後まで見下しながら去っていった。

 俺は考えていた。「あのひとの言っていることはもっともだ」

 認めている自分の心は怒りや反発ではなく、とても静かだった。

 それは二人の歩む報道のあるべき姿、その目指している方角は背中合わせで歩き、けして交わることのない両極端の発想。これでは対面することは相手を背後から闇討ちするのとおなじだ。

「理解はできない両者ってことか。言い分はわかる。このままだとぜったいにあの男に近づけない。だから、しかたがない…俺がそっちにむいてやるよ」

 ある策を練る。思いついたんだからしかたないがない。衝動的行動は報道に従事するのであればわるくない感性だろう。

 どれだけいい話でもこの職場はちがう。ちがった。悲観や嫉妬や怒号、そういうマイナスなものが売れている。荒ぶる感情の高鳴りが金になると。つまりが反響があり話題性に秀でたスクープだ!

 嬉しさというものはそのときだけで忘れてしまう。悲しさというものはいつまでも心、脳裏にかさぶたのように蔓延ってのこっているものだ。もしそれがえぐるような傷だとしたらどうだ。

 自問自答しながらつぶやいた。

「剥ぎ取りたい。向井田のような創傷を」

 

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