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ミステリー

スクープはいとも簡単に6

   

 向井田と若い記者が集まって談笑していた。そこへ聞き耳を立てていたのは快場だった。

 盗み聞きをするつもりはなかった。だが、本当は冗談か、わからないがとんでもないことを口にする向井田の発言に、快場は激情していた。

 向井田のスクープへの幸運が嘘であると。

 信じきっていた報道部の面々は向井田の取材方法が紙一重のような反則行為であると快場は咎めた。

 しかし、当の本人は自らの発言を肯定していた。

 強気の向井田だったが、鳳来に相談した。すると鳳来はまたしても──

 

 その日は異様に暑かった。梅雨も過ぎて夏に入ったと天気予報のお姉さんが通路で話していたのが聴こえた。

 テレビ局にいるとほんとうにいち早く情報が入ってくるもんだ。

 休憩スペースの自動販売機でカップのコーヒーを買って飲んでいる向井田と、同僚の数名の男たちを従え武勇伝を話しているのがかすかに聞こえた。

「すごいすね、またスクープネタをいち早くものにして」

「ほんとどうしたらあんなにも簡単に出くわすんですか?」

 男性たちは祭り上げるように称賛していた。

「そりゃ、決まってるだろ、あんなのはだれでもできる。その気になればな…」向井田はいやらしく微笑みを浮かべながらいった。

「だれでも、俺でも?」頼りなさそうな男性が目を輝かせていた。

「あたりまえだ、その気になればだ」

「どうやるんすか?」

「待っててもスクープなんてとれやしない。ならどうするか…」向井田は配下の顔を見ながら誇示するようにいった。「スクープになるよう自分で細工する」

 配下の者は目を丸くさせた。

「いや、それって…」男性はさすがに驚愕した。

「どういう意味っすか?」

 こんなひらけたところで不正めいた話をしないでもらいたい。聴いてしまった同僚たちも同罪になっている。それを黙認しているからだ。もしその事実が暴かれたとき世間はそれを咎める。

 平然と悪事を公言した向井田。自ら種を蒔いて水をそそぎ成長をさせるための栄養を豊富に大地に混ぜる。肥大しても構わない。それがどんな色合いの花を咲かせようと強制的に好みの開花を望める。

 すべて向井田の自作自演劇の不正スクープ。棘のある真っ黒な薔薇を咲かせるのだろう。

 自ら公言しているこの男の横暴さを俺は吐露してやりたい。

「あの男…」強烈な遺憾をおぼえた。「俺の耳にまで聞こえてんだけど…」

 通路の曲がり角に身を隠していたが、こういう話には俺の聴覚ははっきりと会話を拾うようだ。

「アホが…」俺は奥歯を噛みしめて悔しがった。

 シナリオは自分の頭の中にあり、映像もどういうふうに撮るか監督気分になって撮影している。ご満悦の手法を後輩たちに話し聞かせていた。それがたとえ不正な行為だとしてもだ。

 問いつめても言葉の綾だといって逃れるだろう。証拠がない。本人の自供だけが証拠だが、警察も逮捕できない。狂言というのもあるが本人がいくら不正をしたとしても結局逮捕はできない。

 喉から手を出して向井田の襟首を引っ張って警察署に連行していきたい衝動を抑えるしかない。

 本人は妄言、もしくは比喩といった意味で笑い話に花を咲かせる。まったく隠そうとしていない。それが腹立たしくもあり悔しくて過剰な激昂を抑えこんでいた。

「おい、あんた!」俺は忍耐強くない。我慢できずにその中に入っていった。

「なんだよ、立ち聞きか、こそ泥みたいなやつだな」

 向井田は、まずい、聞かれたという顔をすこしでも取り繕って狼狽するならまだこのまま退くこともしただろう。証拠がないから強気にでれない。だがこの男は最低のなかの最低男だった。

 己が勝てるための強固な立ち場にいる。その隙が針の穴ほどもない。しかし抗い屋はただまっしぐらに針の穴を射抜くだけだ。

「いまの話しほんとうですか? スクープを捏造して自作自演で、でっちあげたものだってこと」俺はここぞとばかりに捲くし立てる。

「それがどうした!」向井田の満面の笑みで嘲笑し愚弄している。

「それでも社会人ですか、不正をしでかして正当化しているのはおかしいだろ!」

 向井田の笑みが気に入らず怒声をあげた。

「それがなんだ。おまえもわかるだろ。俺たちがいる世界は戦場なんだぞ。毎日が全力疾走だ。一年じゅう二十四時間油断はできない。そんな状況でまともな精神でいられる人間なんていやしない。俺たちは所どころフィクションを織り交ぜながら視聴者に“まってました!” って思わせるような話題を提供しなければならない。これは我々テレビ局が視聴率を獲るために役立つものだ。これがわからないなら、おまえは今すぐにでもクビだ」

 その話はなんとなくだが理解できる。要は注目を浴びたい。それは俺の狙いでもあったからだ。俺もやっていた。だが不正はない。なにひとつ。真実しか掲載していないことだ。

「もっと正当な道を選ぶべきだ。あなたのやっていることは、いつかその首をへし折られることにつながりかねないと忠告をしているんだ」俺は引かない。あくまで抗っている。

 向井田の目はきつく睨みを強めて言葉を吐かずにいる。それはつぎなる嘲笑を放つために脳ではシナリオを書き綴っているのだろうと俺は解釈していた。

「そうか。なら、どうする?」向井田はなにやら提案めいた口振りだった。

 ほかの同僚たちは狼狽している。だが発言は言いとどめていた。この話題に触れたくないという顔を浮かべていた。

「まっとうにスクープをとってきてください。もう捏造や不正はしない。そう誓ってほしいんです」

 向井田は承諾しようとしていると、俺は勝手に思いこんで緩やかな口調にもどっていた。しかし、それは見事に覆される。

「俺に意見するな」

 向井田の捏造スクープの自作自演劇を、俺がその事実を知ってしまい不正を問いつめるも堂々とそれを報道しているクズは、やはりクズのままだった。

「報道部で一番のエンターティナーだ俺は、おまえのような足で地道に取材してスクープを待ってくる古典的なやり方では給料は出ないんだよ」

 向井田は罵る。結果がすべてだから。それを自ら創作している。たとえ捏造だとしても。故意たる犯罪だとわかっていても、それはすべてが等価値なのだ。

「もし、そうなら…」見下された向井田に反論する。「やってられないよ。ケダモノめ」

 無鉄砲な抗い屋しかなれない惨めな男だ。

 勝ち誇る向井田は負け犬の遠吠えを背中でケタケタと笑っていた。

 

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