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ミステリー

スクープはいとも簡単に6

   

 鳳来は並大抵の神経を持った人間ではない。このひとにスカウトされたわけだが、そのことでも多くの社員が反対していたという。まるで酒の勢いで居酒屋の店員がちょっと接客が良かったからといって「うちの会社に就職してみろや」と誘ったようなものだ。

 俺は鳳来に直談判する。これは問題にしなければならない。嘘か真か、明らかにすべき問題だ。

「いいではないか」鳳来は笑っていた。「とりあえず金になればいい。話題になればなにをしてもいい。尻拭いを自分で拭けるならな」

 開いた口が塞がらない。鳳来は把握していた。向井田の仕出かしていること、まさか承知の上で?

 一般企業ならデータ改ざん、裏帳簿、インサイダー取引、その他もろもろの不正に等しい。それを見て見ぬふりだというのだ。

「もはや犯罪に手を染めている共謀犯だ」正義の心で訴えた。

 鳳来は呆然と俺を満開の桜を見上げるような目で見ている。

「パッと咲いた花のように感動的なことをいうものだ。だが、そんなんじゃ一丁前の記者にはなれねーぞ」

 鳳来が向井田の不正を快諾している。全員が猿だ。きかざる、聞か猿だ!

「マジかよ…どうなってんだ…」

 職場のみんなは黙認している。

 あほのように高笑いをしている鳳来の性格を見抜けていなかったのは俺の落ち度だ。スカウトに至っても便利に活用するためだけだったのだろう。ほとんど雑用しかしていなかった。いくら観光スポットの季節ネタ取材をさせてもらえるようになったからとはいえ、胸は躍っていない。熱くならない。

「それじゃ、俺もなにをしてでもスクープをもってきていいんですね?」ハードルを自らあげて主張する。

「もちろん、そんなもんなにしてもいい。話題になるネタならやけどな、はっはあー」開いた口に高笑いをあげた。

 だいじそうにデスクに置いてある家族写真をマジマジと鑑賞するのが、鳳来の日常的な仕事だ。

 都内の六本木ヒルズの30階の高層マンションに妻、子ども二人と住んでいる。妻子はだんだんその暮らしに耐えきれなくなっていた。高級感すぎて疲れ果てていた。子どもたちも部屋が高すぎて恐いといっていた。

 我が子を高所恐怖症のトラウマにかけてしまう鳳来の傲慢さは変人級と称されることもある。

 だからなんでもおもしろそうなのを手中に入れ、甘い汁が搾れるまで握りしめ固い拳が震えるまで最後の一滴を搾り出し終えたら手放す。カスとなった果肉は食すに値しない。だからいらないといわれないために報道部員は粉骨砕身で奮起している。

 その点、向井田のやっていることはおもしろくてしかたがないと高みの見物をしながら本音では鼻で笑っている。

 俺はちらっと周囲を見渡した。目を背けている。誰もこの疑惑に乗ってくる者はおらず、俺を後押しする者は一人もいなかった。ナンバーワンの座から引きずり落とす絶好の機会だというのに。

 新人が同僚の不正を暴いたが、勇気がなく誰も一歩を踏み出すことはしない。向井田を批判する者たちから称賛されるはずが…無視だ。

 鳳来は核心のひと言を教示した。

「おまえのようなガキにはわからんさ。社会という大人の世界に踏みこみたいのであれば世界の縮図は向井田が真実だ」

 まったくもって理不尽な社会だ。不正を働いているものが称賛され、真面目に独自の道を突き進むことが批判される。おかしな世の中になっている。気づいてほしいものだ。過ちが正統化されていることを。

「この社会は、終わっている…」俺は落胆した。
 
 

≪つづく≫

 

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