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幻想 / 夢幻

不忘夜話2・教室の花子さん(前)

   2018年7月6日  

 
 こうしたことでK学園の中等部で理科を教えることになりました。
 K学園は、昭和初期に設立した歴史の古い学校です。
 校庭の隅にある武道場に昔の面影が残っています。
 校長と面接をして、学年主任に説明を聞いて、すぐに教壇へ立ちました。
 最初は1年A組でした。
 いきなり知らない先生が入ってきたので生徒たちはおどろいたようです。
 女生徒は歓声をあげていましたよ……。
 そして次の時間、1年B組の教室で授業を始めたときのことです。
 まずは出席簿を読み上げて出欠の確認です。
「会田」
「はい」
「青木」
「はい」
「垣内」
「……」
「垣内?」
「……」
「垣内、いないのか? いないなら、いない、と言え」
 という古典的なギャグを飛ばしながら出席を取りました。
 そして最後に──。
「山田」
「……」
「山田、いないんだな」
 このとき、生徒たちの間に、少し緊張が走りました。
 授業が始まり、説明が終えて、生徒が黒板を写しているときに欠席を確認しました。
 出席簿と生徒が座っていない椅子との照合です。
 ピッタリあっていました。
「あれ」
 そのとき、妙なことに気が付きました。
 出席簿の最後が“山田花子”になっているのです。
 その前には“渡辺真一”、“渡部真理絵”があります。
 出席簿はあいうえお順ですから、“山田花子”はもっと前になるはずなのです。
 変だとは思いましたが、それだけです。
 途中からの転校生なので最後に付け加えたのだろう、くらいに思いました。

 こうして、週4日、毎日4時間の仕事が始まりました。
 私としては楽しい仕事でした。
 起業したときに使えそうなノウハウも、たくさん見つかりました。
 ただ、山田花子のことが気になりました。
 一度も出席していないのです。
 顔を見たことがありません。
 教室の一番後ろの窓側の机は、いつも空のままです。
 担任の先生に聞くと、
「そのまま欠席にしておいて下さい」
 と答えるだけです。
 何か意味がありそうな感じでした。
 でも話したくない……。
 私も、無理な深追いはしませんでした。
 あくまでも非常勤ですから、学校内の細かいことを詮索するのは遠慮したのです。
 

 

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