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風刺 / ユーモア

俺たちのモクサン(5)

   

「ようやく来たかっ、すぐに置いてくれ。治療は僕らの方でやるから」
「もうぎゅうぎゅうですぜ、分かると思いますがね。詰めよ詰めよって言いますけど、これじゃあ完全に『詰めろ』がかかっていますよ。せめて両取り王手をかけるぐらいじゃないと」
「そんな便利な手はないんだっ、無茶だと思うが何とか頼む!」
 モクモクと煙が立ち込める、それこそ不自然なほど発煙している部室棟の中で、短いが深刻かつトゲトゲした言葉のやり取りを、俺とモクさんは続けていた。
 もっとも、喋りでやり合っている暇などなく、すぐさま俺は天文部の部室を出て、スマホの画面を頼りに発信タグを追っていく。
「いたぞ、篠田だ! 奴を押さえろっ! 十段の免状と支部開設許可が待ってるぞ!」
 もうもうとした煙に肺をやられるのが嫌で身を低くして息を止めつつ走っていると、中庭の自販機のあたりで、張っていた警備隊の連中に囲まれる形となった。
 安手のSF映画を意識したような制服を装備しながら、半端な知識だけで描いた江戸時代漫画に登場しそうな「捕手道具」のような何かを持った男たちがずらずらと迫ってくる。
「段位だの支部だのっつっても、有効な免状じゃなきゃ仕方ねえだろうが。誰が習いに来るんだよ、そんな得物なんてよ。タイマンでかかって来いや」
「何だとっ! 死にたいのか貴様!」
 こちらの安い挑発に引っかかり、何人もの男が連携を考えずに突っ込んでくる。
 しかし、現代の法やら条例やらにかからないようにもイガイガの先を丸くし、間隔も中途半端に広げた、音叉のオバケのようなその得物では、二十一世紀流のぴっちりした化学繊維でできた衣服にはまったく引っかかることはない。
 無造作ににょきっと突き出された棒の中央に掌でアッパーを放ってやると、そのオモチャは実に軽々しく吹き飛んだ。
「たああっ!!」
 すると今度は、手錠と言うか孫悟空の頭の輪を小さくしたような円状の金属で出来た何かを一人が放ってきた。
 警戒していなかったために手首にすっぽりとハマり、次の瞬間力が伝わってくる。
 輪の尻尾には細い鎖が連なっており、それを扱うことではめたパーツを通じて相手を操ろうという算段なのだろう。
 実際、いきなりの動きによって、左手は大きくブレかけた。
 とは言え、それだけである。
 片腕の自由が奪われただけなら、どうにでも動ける。
 利き手でない手を握られて困るのは、両手で扱う必要があり、かつ持ち手をさほど動かせない武器、すなわち日本刀などを扱っている時だ。
 そして俺は今、刀を使っているわけではない。
「ふんっ!」
 そこで俺は鎖から流れてくる力を逆用して相手の姿勢を崩し、伸び切ったチェーンを叩き切った。
 すると手首についた輪も拘束具から防具へと格上げされるので、それで相手の、モップのオバケのような武器が振り下ろされるのを受け止め、逆にへし折ってやった。
「まだ来るのか、てめえら!!」
 力の限り叫び声を放ってやると、武器を失った警備員たちは、ひいっと悲鳴を上げて揃って尻餅をついた。
 俺は軽く息を吐きつつ、先を急いでいった。
(ったく、マジで面倒だな……!)
 苦戦を強いられる中、少なくとも俺は、仕掛けてきた警備員たちへの行動をきつく制限されていた。
 具体的には、相手が武器を持っていようと、直接攻撃をせずにやり過ごすだけにせよとモクさんから言われていたのだ。
 警備員が制服で大挙してきたとなれば、それは間違いなく「仕事」であり、何らかの許可を得ている。
 そこで俺が本気で殴り飛ばしてしまうと、正当防衛はおろか喧嘩としても処理されず、一方的な暴力犯として扱いを受けることになる。
 単なるワルい坊やたち相手に本気を出してきた連中はそれだけ、「特別な理由」を求めているはずである。
 モクさんから言われたその理屈は確かに頭では分かる。
 理解できるがしかし、仮にも不良を名乗っていて、仲間たちがボコられているのに手を出さないのは納得がいかない。
 しかし、ろくな実戦経験もなく、武器と言うよりは汚職やピンハネの証拠でしかないような得物を握ってオラオラと攻めてきているしょっぱい連中に攻撃して、「事件」にならないなどとはとても言えず、それで俺はためらっていた。

 

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