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風刺 / ユーモア

俺たちのモクサン(5)

   

「おおいっ、無事かっ!」
 それでも、全速力で動き続けたことの結果は良い方向に現れた。孤立していた杉下たちだが、殴り倒した野良っぽいヤンキーたちに腰掛ける形で、うまそうにタバコを吹かしていたのだ。
 配慮をきかせたのか、モクさんが流してくれるものの中でも、もっとも高級なブツの匂いがあたりに漂っている。
「何とかな。野次馬っていうか火事場泥棒っていうか、ま、しょっぱい連中ばっかで助かったところだぜ。俺ら以外は連れていかれた。連中、流高以外の人間には目もくれやがらねえ」
 杉下たちは血と汗でドロドロに汚れていたが、それでもその表情はどこか爽やかだった。
 全滅が避けられた上に、深刻な「事故」も起きなかったからこその笑顔だった。
「おい、篠田。お前も一服しねえか。こうなった以上、今日がラストだろうし」
「ラスト? おいおい、大人になりゃあタバコなんていつでも……」
「ラストだよ。ここで吸うのも、モクさんから買ったタバコを吸うのも」
 そう言って杉下は、自分が吸っているタバコに別のシケモクを押し当てて火をつけ、俺に吸わせてくれた。深く息を吸い込むと、どこかスっとして甘い、モクさん印タバコ独特の香りが胸に満ちてくるのが分かる。
「まああれだよ、篠田。多分、二十歳になってからやっても、今ほどうまくはないだろう」
「同感だな」
 と、柄にもなくしみじみしていた俺たちだが、別にサボっていたわけではない。
 自分で言うのもなんだが、俺の巨体とタバコの煙があいまって、むしろ何かの冗談のように相手が殺到してきた。
 野次馬気分で寄ってきた街の不良から敵対高校の連中まで様々だが、皆一様に気合いが入っていたのは間違いなかった。

 

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