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ミステリー

スクープはいとも簡単に7

   

 意気消沈している快場は美桜にたしなめられていた。

 記者のあり方というのを否定されたように快場は落ち込んでいた。

 そんなとき美桜のスマートフォンをちらっと目にはいった。メッセージがとどいて画面に表示された。

 それは学友からだったが、合コンへの誘いだった。しかも彼氏を罵るような文面を見てよけいに快場は腹を立てた。

 美桜は大学でどんな生活をしているのか不安になっていた。とりこぼされるような錯覚さえ、美桜に不安を抱き始めた。

 快場はこの日、初めて会社を休んだ。それは美桜を尾行し、取材するために…

 

 窓を開けて呆然と青い空を見上げていた。物思いに耽るときはいつもこうしている。ひざ下くらいの台座に腰をかけて窓枠に肘をついてうつろな目で世間を見る。そうだ、ちょうど三年前も同じような気持ちでこうしている。

「驚いた」美桜は俺の姿を見ていきなりそういった。「一緒に暮らすまえのときもやることないとき、悩んでいるとき、落ちこんでいるときってそうしているよね」

「なんだよ…」俺は美桜の顔をのぞいた。その顔は笑っていなかった。

「あの頃のまぼろしを見ているようで嫌なの」美桜のきつめの言い方に驚いた。

 何も言えず俺は目を点にしていた。

 窓から勝手にはいりこんでくる緩やかな風が俺の心をさらっていった。そっと右手は胸の衣服を握りしめるように掴んでいた。

「ああ…そうだな」

 美桜のいうとおりだ。俺もあの頃の俺にはなりたくない。

 美桜のスマートフォンの画面をちらっと見た。画面が光その内容が表示されていた。

『美桜の彼ってフリーター同然でしょ? 将来の見込みもない人と付き合っても時間の無駄よ、医大の人たちと合コンするからきなよ』

 俺の視覚に入る美桜のスマートフォンのアプリ。そのメッセージは、俺を中傷する内容だった。

「だれだこいつ、あったこともねえ女に貶されているだと…」

 伏せておけよ、と美桜を睨みつけたがもうあとの祭りだ。

 美桜はいま台所で朝食を作っている。エプロン姿の美桜は、かわいい。頭がさがるような思いでがっかりする。美桜のその姿に惚れているが、朝からなんでこんな内容のメッセージを送ってくるんだ。俺はいらつきがおさまらなかった。

 朝は時間がないといつもこぼしていた。手伝えばいいのかもしれないが、「邪魔!」のひと言で終わる。

 台所、男子入るべからず。

 せわしそうにしている姿を見てはいつも感謝しかない。だが、このときのせわしさはまるで、すでに合コンへの意識が動いているように見えてしまう。

 疑いはじめたらそう見えてしまう。俺だってそのくらい許容しているというものだ。将来に結びつけるつもりなら抑制しなければならない。

 美桜は俺のものだ。

 長い時間共に一緒にいた俺たちと、東京で最近知り合ったような大学の仲間たち、天秤にかけたらどっちが思いが深いか。それを考えたら今さっき見たことなんて捨てておくにかぎる。

 幼少のころからの幼馴染。そのせいで切っても切り離せない粘着性の強い物質と性質が二人の絆でできている。

 価値観を植え付けてしまう大学の講義は美桜のこれまでの心象を変えたのか、いや進化させたのかもしれない。常識的にまっとうになり、堅実であるがゆえの女の発想が女子の集まりによって感化されてしまう。

 すなわち金を稼げない男はいらないということだ。

 大学受験のとき美桜は必死で大学に受かるために勉強をしていた。俺はそんなつもりはなかったから自宅の部屋でパソコンを毎日いじっていた。

 いつも言っていたな、大学へ行かないと将来的にキャリアで年収1000万円、会社でも中心的な立場になり、会社として生きた財産になるため精進している。だから大学への進学を強く進めていたのを憶えている。

 俺からしてみたらそんな考えは突拍子もないことだとわかっている。誰の入れ知恵かと問いただしたいところを言いとどめた。

 美桜なりの考えと判断した。いくら俺が言ったところで説得はできない。勉強していないからだ。そんなやつのいうことをまともに聞き入れる耳はない。

 ソーシャルネットワークサービスによって情報はリアルな一流企業の社員の声を聴くという特別授業を高校のときに受けたが、美桜やほかの優等生や将来に不安を持っている生徒は真剣なまでに耳を傾けていた。

 俺はそんなとき自分のスマートフォンをいじっていた。

「いいとこばかりをみせるだけの教材だ。リアルな声は、俺がいまみている2チャンネルだ」

 周囲を見渡したが全員が顔をあげていた。俯いていたのは俺だけだったろう。

 東京に自由を掴むために行くといって美桜を追いかけた。美桜も俺の気持ちを汲んでわかっていたから、いまだにつながりがあり交際にまで発展した。

 むしろ安心していたのかもしれない。一人孤独に暮らす美桜は俺というだらけた者が近くにいることで、これまでどおりの自分でいられたのかもしれない。都会の時間の速さ、流れ、そういうストレスの捌け口を俺にぶつけていたところもある。でも最後はいつも笑顔で俺と並んでコーヒーを飲んでくれていた。

 すこしでも空白の時間があったら身近にいなければ…、考えたくないが俺なんてとっくの昔に捨てられていただろう。

「あっ時間ない…」

 美桜はせわしく俺に朝食を食べさせて身支度をすませていた。

 8時過ぎだ。朝早くから部屋を出て大学へ向かう後ろ姿に「いってらっしゃい」という決まり文句を投げてから即行動に移行した。

 それは彼女をストーカーする。ただのストーカーではない。いうならば尾行だ。

「気になる、医大との合コン…」

 やっぱり見なければよかった。彼氏として疑いをはらさないとならない。向井田の疑念とは重要度が異質だ。失うものが大きすぎる。

「俺にとっては最重要事項だ。それと、あいつが学ぶ社会に関する知識…どんなものか隠れ取材を遂行させてもらおう」

 大学というところがどの程度、個人を誇示させ卒業もしくは在学中に世に通用するだけのハウツウを学べる場所なのか、取材をする。

 この日、初めて職場に欠勤連絡を入れた。

「ゴホゴホッ、どぅみまべん、風邪のびょうで、ばずみます」
(ゴホゴホッ、すみません、風邪のようで、休みます)

 新米はこれだから…、とちいさく聞こえたが“どうでもいい”と俺の心の中で吠えていた。

 最優先事項のミッションを遂行しなければならない。

 

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