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ミステリー

スクープはいとも簡単に9

   

 快場が報道部の契約社員として仕事ができるようになったのは、デスクである鳳来によってのものだったが、入社してもなかなか思いどおりの仕事ができていなかった。ずっと雑用扱いだった。

 教えてもらうのも高が知れた作業ばかりだった。

 自分の思い描いていた記者としての手腕を活かせきれないのが口惜しくてならなかった。

 そのため、休日の空いた時間は自分だけで取材を試みていた。

 そんなとき、一人の中年の男性と出会う。その男性の人生は、快場の目を瞠るものだった。

 

『SKY634テレビ局報道部』

 各テレビ局内の部署を示す看板が局内の壁に設えてあるが、青二才の俺が勤務する部署だと思うと気が引き締まる。

 高卒の俺が本来正社員として入社できるはずもない。契約社員でもおこがましいほどだ。それでもここにいる。

 上京してからずっと単身SNSを通して、大手テレビ局よりもユニークでおもしろい報道を個人的にアップしてきた。

 いつしかそれはメディア関係者が注目してダイレクトに連絡がきたりもした。ついにいくつかのテレビ局報道部から誘いがかかった。つまりスカウトだ。

 タレントやアイドルだけじゃないんだと俺は驚いた。その中でいちばん目をひいていたのが、SKY634テレビ局報道部だった。

 デスクの鳳来のご達しで契約社員として入社できるようになった。現在三ヵ月が経過している。

 入社後、これまでとおなじ自分のスタイルで報道できるものかと思った。現実は蓋を開けるまでわからないのが常となっている。実際は雑用や機材運搬やアシスタントといった雑務ばかりだった。報道に繋がる独自の取材ができずにいた。

「いっとき騒がれるだけの一発屋だろ。おまえは芸人かって!」向井田は罵り高らかに笑う。

 己の地位を脅かされることを妬んでの攻撃だとすぐにわかった。

 それも当然、ここにいるプロフェッショナルな記者は全員が大学を出ている一流の社会人だ。アルバイトのような奴になにひとつ教える気などない。だから雑用しかまわってこない。プロフェッショナルな思考や技術は自分で見て、聞いて、下積みからの叩き上げというわけだ。

 俺は叫ぶ。まるで子どものように叫び散らす。

「こんなことをするために社会人になったわけじゃない!」

 雑用とはいえ、端から現場に付き添い、なにもしていないわけではなかった。メモを取り、視野を広げて一人ひとりの動きの観察、報道の知識。それに徹していた。

「こうなったら、見よう見まねでおぼえていくしかない」

 この判断は功を奏した。スクープを物にしたとき、その蓄積された努力と抗い屋の意地が爆発する。

 休みの日に単身、報道に繋がるネタを探しまわるのは当然だ。だが、そう簡単にスクープに遭遇するようなネタはない。もとより俺はこれまでスクープと呼ばれるネタをとったことはない。おもしろい様々な動画を撮影していただけだ。

 向井田が捏造の自作自演スクープを目撃したわけではないし、自白したのを立ち聞きしていたが冗談めいた物言いとして相手にされなかった。向井田の愚劣さというより、この報道部の関係性に嫌気がさしていた。

 青い空を呆然と見上げていた。公園で一人途方に暮れ無意味にスマートフォンを動画モードにする。その狭い世界の空間に映し出された画像を見て、その小さい世界のすばらしさに歓喜している。

「この小さな画面の中に映しだされた世界がすばらしくてやめられない。俺はこれを取材していきたい」

 小さな子どもがお母さんと一緒に楽しく遊んでいる。大学生や高校生のカップルや男だけのグループや女だけのグループ、といろんな人間関係が点在している。それぞれが会話を弾ませて笑いあっていた。

 自然な風景の中に生命をちりばめられたように撮影しているのを見て感じたことがある。共通しているものがある。

「いい笑顔だ、こういう素敵な笑顔を取材していきたい」

 向井田にはぜったい関心のない絵面だろう。スクープでもなんでもない。ドキュメンタリータッチに取材するのは罵り屋では吐いて捨てるからだ。

 

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