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ミステリー

スクープはいとも簡単に9

   

「でも、この町のお偉い方や役所のひとたちが管理するべきことよね」

「ありがとうございました」

 別の意見を求めよう。母親はまだ無数にいる。時間が過ぎるだけでいっこうに的を得たインタビュー者はみつからない。

 向井田のことでむしゃくしゃしていたせいもあり、もっと激昂した感情むき出しの主婦はいないものだろうか。

 この取材と撮影はしっかりと進行しているが、嘲笑える生き物を見下している者がもっと多いはずだ。それをネタにしたいがためのインタビューだということを狙っていた。

「あのー、ちょっといいですか」今度は中年のサラリーマンに取材を申しこむ。

 昼時も過ぎているが公園でのんびりしているのは不思議だ。とりあえず事情を伺う目的の話しに持ちこもう。

「昼休憩がすこしずれて…まぁ、いまになったわけさ」中年サラリーマンはいった。「仕事がいそがしくて、こういう静かな公園でのんびりしないとストレス解消にならないからね」

「すみません休憩しているときに話しかけてしまって」

 下手に出ることで印象をよくしようとした。上から物を言ってしまった時点でインタビューは中断される。

「いいんだよ、気持ちも晴れて今はすっきりしているところだし。昼時を過ぎていたから飲食店も空いてて、のんびり食べられたしこの公園のベンチに座って、いや寝そべっていてもだいじょうぶだしな。主婦や子どもがいても砂場や遊具のほうに集まるから、こっちのベンチだけの場所にはあまりこない。気をつかうこともないから、ほんとうはこの時間帯に休憩をとることを狙っていたんだ」

 サラリーマンは、さいごの“ほんとうは──”のところから耳打ちで囁くように声をひそめ大笑いした。

 スマートフォンの撮影だとしても声はばっちり録音されている。意味のない声のボリュームの変化に内心バカなやつだと笑ってしまう。

「この公園は日ごろよく利用されるのですか?」

「もちろん、毎日きているよー、広い場所だから、ベンチもたくさん設置されている。職場もすぐそこだから急いでもどることもないし余裕だよ」

 意気揚々と話すサラリーマン男性。中年だからか太めの体形を気にしないのは、なにかひとつあきらめているようだった。

「なにか不満などはありますか?」

「この公園に?」

「はい」意気揚々と話すサラリーマンのおじさんに察してほしい気持ちを望んでいた。

「この取材はなんの取材なの?」サラリーマンに逆質問されてしまった。

 念頭から話していなかったのを失敗した。まずい、と思ったがすぐにタイトルをいえば話題は修正できる。

「サラリーマンや主婦の方がどれくらい公園を利用しているかの調査です」

「そういうこと。そうだなー、不満はないよね。いつもいるしね」

 中年サラリーマンは眉間に皺を寄せながら、ある方角をみつめていたが男性だからかとりわけそれを意識しているとは思えなかった。

「なにか気になることは?」あえてこちらから訊ねた。

「いや」そこで口ごもる男性。

 しかたがなく切り出す。「あのひとたちを見ていましたか?」

 それは浮浪者のことだ。

「んー、ちょっといま目にはいったかな。でもそんなには気にしてない。なんか清掃もしているし、対立するいざこざもないしね。お互い衝突しないように距離感を保てば問題ない。共有な場所でしょ。公園って」

 サラリーマンは社会にでているからこその温情があるのだろう。いつかは成れの果ての姿と思っているところもあるのかもしれない。

 一歩まちがえばあなたもあーなることだ。サラリーマンは常に浮浪者への予備軍であることを内在しているのかもしれない。

 いや、もはや認識しているから他人事ではないのかもしれない。だからその口ぶりなのか。これ以上は同じ結果になりそうだからインタビューの対象者を変えることにした。

 インタビュー中にも空き缶を拾っている浮浪者が撮影しているスマートフォンの画面に映しだされていた。

 多くの浮浪者がいることがわかる。こぞって空き缶を拾っている。今日の食い扶持は手にできたのだろうか。

「そろそろ本命といきますか」

 そうつぶやくと俺は緩やかに歩を進めた。

 浮浪者とは毎日なにをしているのか。そこで俺はひらめいた。

「埒があかない。正統派はバカをみるか…なら向井田のようにスクープを作ってやる」

 嫌悪しかない向井田と同じことをしてみる。どんな気持ちに自分はなるか、それを試すいい機会だ。ほんとうはそんなまねはしたくもないが…、このテーマがそれをさせずにはいられない。余計な選択肢が枝分かれしたがための手段。吉と出るか凶となるか。試すしかない。

 のし上がれるのならやってみる。これで少しでも上位に君臨できるのなら、騙そうとも他人の不幸を利用しようとも、涙を流すことで支持率が集まるのなら、それはすべて自分の力になる。

 俺は“巨人さん”をターゲットにした。

 

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