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ミステリー

スクープはいとも簡単に10

   

 快場は、巨人さんにたいして金銭を与えた。自分なりの取材もそうだが、おもしろくなるよう細工する。そう、その手段はキライな向井田がやる手法だった。

 このとき快場は仕事で取材ができないせいでストレスが溜まっていた。おかげで善悪の境界線を踏みはずしそうになっていた。

 その巨人さんが渡した金でどのように使うか、それをおもしろおかしく動画としてSNSに掲載する。

 しかし、その動画を掲載したことで、快場は世間からバッシングを受けることになるが、それもチャンスに変えていた。

 

 改めて謎の男の印象を記すと、白髪交じりのモジャモジャ髪。巨人のキャップをかぶっている。中年太りではある。スラックスにスニーカー、灰色のブルゾンに黒のポロシャツを中に着ている。

 毎日観察して結局いつもこの服装のパターンしかみたことがない。

 話をしてみると、とってもおだやかで気さくで物腰柔らかいまるで紳士のようだ。その態度と性格から話し方も好印象をもてる人物だった。これほどの浮浪者がいるわけがない。

 やはり最近こっちの世界に落ちた人間なのだろう。

 そこでひとつ人間の本性を見てみようと鎌をかけてみた。本音や今の現状を吐露させる。

 インタビューはひとまず置いておいて、おもむろに浮浪者に金を寄付した。

「これで風呂に入って身なりを整えて洗濯もして、しっかりと食事をしていいよ…すくないけど」

 目的はこの浮浪者の素性を暴くのが狙いだ。それとどうもこの仏のような顔をした善人ぶっているのが鼻につく。本心はこの金を独り占めしてどこかこの場を離れることも視野にはあるはずだ。

 そのためのフェイクを仕掛けてみた。

 他人からのほどこしをどうリアクションするか。その反応をみたかった。怒りに満ちて殴りかかってくるか。それとも無視するか。そういうマイナスなイメージしか想像力は働かなかった。

 浮浪者の生活はこれまでしていた普通の暮らしから逸れている。ぜったいに金に執着しているに決まっている。

 新米浮浪者と見越してのほどこしのフェイク。それを物笑いにするためにピエロになってもらおうとしての行為だった。だが予想だにしない反応をみせた。

「ありがとうございますー」

 浮浪者は天を仰ぐように感謝した。うっすらと感極まってか涙目になっていた。

“これだ”、俺は手を固く握る。まさかの反応だったがこれは期待を裏切られたからの良質なネタになると見極めた。

 俺が狙っていたのは待望していたのはこの反応だった。

 公園の茂みにはスマートフォンを設置して撮影している。報道部らしくビデオカメラを使いたかったが、俺の売りはスマートフォンでの撮影だ。ここはスマートフォン用の三脚を茂みに設置して動画モードで録画をし、浮浪者との今のやりとりを撮影している。

 感謝している浮浪者を放置し、その場を立ち去ることにした。物陰に隠れ設置したスマートフォンのところにいき金を無償で得た浮浪者の行動を勝手に撮影する。これが狙いのひとつでもある。

 プライドを捨てて手渡した金をどう使うかを隠し撮りする。それが浮浪者について社会的な問題としてスクープに昇華する狙いでもある。

「さて、今度こそ期待どおりに頼むぜ」

 裏切られた気持ちを一瞬は心地よくさえ思っていた。期待どおり、狙いどおりではそれ以上のインパクトはない。裏切られてこその一般人が知らないリアルがその人物にはあるという心情を抉り出せるということになる。

 それを引き出すのは100取材して、1当たりがあればいいようなものだ。もしくは一年にひとつだけのネタというのもざらである。

 取れ高にこだわるのであれば、101こなさないとダメだろう。

 リキュール店が公園のそばにあるがそのひとは金を握りしめながら、ほかに金の使い道を考えることもなく迷わず足先をその店にむけて入っていった。

「ちっ、そそくさと酒を買いやがって、俺がいったとおりにしてくれればいいのによ。そうすればもっとハプニングが起きると思ったのに」

 狙いとして風呂に入るために銭湯にいってもらうが、入店拒否される。浮浪者だから。身なりを整えるためのファッションショップへ、入店拒否される。浮浪者だから。洗濯はコインランドリーがある。しかし、管理者に見つかって拒否されることもあるかもしれないと期待している。食事はいっさい入店拒否。浮浪者だから。不快に思うほかの客のための配慮として鼻つまみモノ扱いだ。

 これだけでじゅうぶん笑える。あとは適当なナレーションと煽りの字幕を流す。それでじゅうぶんなバラエティ番組クラスへ昇華できるというものだ。

 公共の場VS浮浪者の男、という対決を見たかったのだがこれでは金をどぶ川に捨てたようなものだ。

「こっちだって苦労して給料を無駄に捻出したんだぞ。経費で落ちない金だ、わかってんのかぁー」俺は落胆に腰を落とす。

 ほかにもこの撮れた映像を加工すればなんとかなる。面白く字幕やアフレコでユニークに対話をしている光景を見せるというものだ。バラエティー番組ではよくある編集テクニックだ。

 

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