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コメディ

ゾンビは色々解決する(3)ゾンビは上納金問題を解決する

   

正社員にアルバイト、社会人としての「立場」は色々あるが、どこでも問題になってくるのが「出世」である。

常に相手がいることであり、自分の思うようにはいかない。ましてや定員外のところをねじ込んだとなれば、普通は周りが出世するまで下っ端もやむ無しとなる。

しかし、人間関係のヤバさもあり、どうしても上に行かなければならない事情もあったりする。元同僚たちの苦境を知った小川は、自分を身をダシにして彼らの出世の足がかりを作るが……。

 

「丑の刻、上段!」
「おおうう!」
「戌の刻、袈裟!!」
「おおっ!!」
 野太く凛とした声が響くとともに、ビシ、と無駄のない切断音がして、人の背丈ほどもある藁束が床に落ちる。
 中芯入っているのはゴザをまとめたもので、頑丈ではないが、なにかを支えるには十分なレベルと言える。
「捨刀!」
「うす!」
 藁束を切り落とした男は、すぐさま人形にその短い刀を握らせると同時に空いた片手で首を絞め切った。
 その力によって人形の首ががくりと落ちた瞬間、周りから拍手の音が響いた。
「お見事! 大した武士っぷりだわね。ナントカ流の師範って感じだったわよ」
 と、診察に来る「人たち」の「客層」もあり、最近時代劇や剣術にハマっている新井 里美が賞賛すると、多くの「患者」たちも口を揃えて褒めたたえていく。
「いや、素晴らしいもんを見せて貰いましたわい。わしも一世紀ほど前は剣を教えていましたが、こんな使い方があるとは……」
「農民流の使い方だな。私も昔は良くクワを振ったが」
 感激しているかのような「先輩たち」に向けて、照れたように頭を下げてから、小川は口を開いた。
「コツは反射と重みですね。覚悟を決める前に身体が動くよう調整しておくんです。そして、重さで断ち切る、と。これだけ分厚ければ、鋼の善し悪しも関係ありませんからね」
 作業着のそでをたくし上げた小川が、ふうっと息をついてから皆に告げると、ギャラリーのテンションはさらに上がっていく。
 このクリニックにいる「患者」たちは、際立って容態が悪い「人」はおらず、さらに言えば人間でもない。
 遠い昔亡くなって復活したゾンビたちだったりするので、「古い」話題はやはり人気が高い。
「でも、どんな風の吹き回しかね。今まで君が隠し芸を披露することなどなかったろうが」
 ただ当然、年を重ねている分意地悪も「筋金入り」だ。
 しかし小川は、「ヘンクツ善じい」と呼ばれる二百二十歳からのイヤミにも、謙虚な笑みを止めなかった。
「少し、後輩のことで悩んでいることがありまして。もしかすると、皆さんのお力が必要なのかも知れません。見料と言うわけじゃあありませんが、もしもの時は……」
 小川はごく自然なタイミングで本題を切り出し始めた。

 

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