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ミステリー

スクープはいとも簡単に12

   

 朝、目覚めると美桜は快場を咎めた。それは数日前に大学にきていたことを知られていたのだ。

 顔を合わせずに立ち去ったはずが、美桜は知っている。快場は驚愕していた。そして、その証拠をつきつけた。

 スマートフォンの画面を見せられ、そこには食堂で食事をする快場が…。

 誰かが撮ったのを偶然、美桜が目にした。

 異様な空気がふたりを包んだ。

 

 その日の朝のテーブルには食事が用意されていなかった。

 キッチンのところで腕を組み仁王立ちしながら険しい表情をむけている美桜は、寝ぼけただらしない姿の俺を睨んでいた。

「どうした? 朝からタコみたいな顔して」

 冗談のつもりが火に油を注いでしまったようだ。

「わたしがなんでタコみたいになっているかわからないわけ?」

 意外と冷静に聞き入れどうやらタコであることを自覚している。そして見当もつかない。思い当たるふしはない。怒っている理由など聞きたくもない。

「いや、まったく…」

「そう、なら時間の無駄だからおしえてあげる。あなたこのまえ大学にきたでしょ?」

 まるでピストルで心臓を撃ち抜かれたような錯覚と胸に激痛が走った。

「なんでそれを!」

 いとも簡単に誘導尋問にひっかかるとは、まだまだポーカーフェイスはできないようだ。

 報道部では時にはポーカーフェイスは必要だと鳳来は教えを講じていた。知らぬ存ぜぬはのちのち有利になるからだと。その意味はあまりよくわからないが、おそらく知らぬ存ぜぬを通していればここだけの話しという囁きが小耳に入ってくるというのだ。

 それはもはや顔見知りや馴染みの知人、人脈というのが関わってくる。俺にはまだその伝手がない。

 たった一通のメッセージをチラ見してしまい、美桜の大学へ侵入して調べまわった。そのとき俺を知っている者がいて美桜に伝達したのかもしれない。

「だれにきいた?」

「ちがうわ」美桜は近寄りスマートフォンの画面をみせた。

 なんてことはない。女子が群がってダンスをしている姿だ。美桜もそこにはいない。なにを意図しているのか、この画像からではわからない。

「よくみて、目を見開いて、じゃなきゃ目の玉くりだして画面に押しつけましょうか」

 脅しにもとれない美桜の般若のような顔に信ぴょう性が増す。

「これね、おなじ講義を受けている女の子が見せてくれたの、あの日食堂あたりでダンスサークルの子たちが練習していたのよ。その子もダンスサークルのメンバーで出来具合をみんなにみせていたの、そしたらあなたが映っていたのをわたしだけは気づいた。これをスマートフォンのカメラで撮ったものよ」

 次に動画も見せられた。

 食堂と聞いてからだの血管内が弾けるように流れていた。もう一度画面をのぞいた。すると画面右側に食堂の窓側が映っていた。

 やはりそうだ、俺が昼飯を食べている姿が映されていた。

「あっ」思わず感づいた声がもれてしまった。

「なんでいたの?」美桜は鋭く目を細めながら問い詰めようとしている。

 ポーカーフェイスはできなくても言いわけはできる。何かいい案はないか、美桜が納得するような言いわけだ。

 メッセージをチラ見してそれを危惧して尾行した。俺のしらない顔をみせる美桜のことをあれこれと記事にしようとしていたが不毛だった。

 美桜は下品で卑劣な淫売女だ。毎夜毎夜、将来有望もしくは金のなる木であれば身を寄せる。もし俺を裏切ったときにこの記事をウェブサイトに掲載して拡散してやる。と思っていたが取り越し苦労だった。

 美桜はしっかりと俺のもとに帰ってきた。バカは俺だった。

 疑いも晴れ、すっかりとメッセージをチラ見していたことも釈明し美桜はあっけらかんと気にもとめていない。いま問題視しているのは逆だ。

 美桜が通う大学に無関係の俺が食堂を利用しているのは疑念をうむ。

「取材で近くまできて、飯を食べたくてな、寄っただけだ。あと美桜いるかなぁーって」

 小学生級の言いわけしかでてこなかった。こういう母親から責め立てられているようなときほど知性は稚拙になり幼稚なことしかいえなくなる。

 美桜は幼馴染だけあり、俺の心の扉の鍵を所有している人物だ。平然と入りこんでくる。

「そういうことか、連絡くらいすればいいのに…、わたしだって一緒に昼食とれたのに。しかもわりと近くにいたのよ」

 マジか、こんな理由でごまかせたのか。

「そっ、そうか…でも授業かなと思って」愛想笑いが俺の顔に浮かんだ。こういうのははじめてかもしれない。

「授業じゃないでしょ、講義ね…、さっ朝食にしましょ」美桜は微笑みを取り戻した。

 少なからず安堵した。俺は冷や汗をかいた。洗面台へとむかった。

 洗面台で顔を洗っていながら俺の嗅覚を刺してくる。すぐに美桜を指摘した。

「おい、なに作ってるんだ?」

「あっ、ごめん、目玉焼き焦がしちゃった…」

「どうした、めずらしい」

 俺のせいか、俺が不穏なことをしてしまったがために許したようで気にとめているのかもしれない。

 美桜が呆然としている。ちょっと様子がおかしい。

「だいじょうぶかよ」

 慌てて火を消して無駄にした食材を美桜は悔やんでいた。

「無駄にしちゃった…」

 涙を浮かべうなだれている。

「そこまで追いこむなよ」

 美桜に近寄りそっと声をかけた。罪悪感に責められている。

「そうじゃないの…」

 躊躇うように唇を結ぶ美桜にそれ以上いわなかった。

 どこか緊張感があるようにみえる。

「あっ、そうか…」

 気持ちを鎮めようと深い息を吐いていた。

 美桜はいま迷走している。就職面接に熱心に活動をしているが、一社、また一社と結果はあまりよくないものだった。すべてが不採用だったからだ。

 そのためどこか冷静さを失い、大学でいないはずの俺が食堂にいる画像を女友だちから見せられて、癇に障ったように問い詰める。

 きっと普段ならもっと冷静にやんわりと会話をしただろう。

 

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