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ミステリー

スクープはいとも簡単に14

   

 休日に快場は公園にいって巨人さんにインタビューをしていた。やっと胸のうちを語ってくれるようになった。

 家族構成を話した。写真も持っていた。それを見せられて巨人こと白河に問うた。

 家族に会いたいかと。快場はよけいなことかもしれない。しかし、このまま抛ってはおけない。
 

 意を決した快場とは真逆で、向井田は青い空を見上げていた。

「俺はツイている」いやらしく笑みを浮かべてその方角へと走らせた。

 まだ神が向井田に微笑むかのように──

 そして事件の幕が上がる…。

 

 休みは週末の土曜日と日曜日だが、昼間は巨人のキャップをかぶって公園で過ごす浮浪者の男性をインタビューしている。

 何度も訪れた甲斐があったというものだ。白河はやっと胸のうちにある悩みを話し聞かせてくれた。

 途中で頓挫してもいい自分なりの企画だ。だがこれは走りだした。

「心を開いてくれてありがとうございます」

「ああ、いいんだ…、おそらくきみには話すだろうと思っていた。なんとなく、自分の気持ちを話すことで償いを果たす覚悟を決める時期だったのかもしれない」

「そうですか…」

 まだまだ暑いが、冷えこむ夜もある。昼間は汗ばみ、夜は冷える。この寒暖差に年老いた白河の身体が気になっていた。

「体調はだいじょうぶですか?」

「あぁ、丁度いい季節だと思うよ。待ち遠しいのは満月をみながら夕涼みをしてぐいっとやりたいね」

 公園に設置されている自動販売機で炭酸飲料を買った。白河と話し込むため喉を潤わす。ごくごく飲んで炭酸飲料の特徴のげっぷをした。なにか憧れるように炭酸飲料を見つめている。

「ビールがよかったですか?」俺はにやついていた。

 白河は自嘲するように笑った。

「いや、アルコールよりこっちのほうがいいときもある。酔っているばあいじゃないからね」

 俺はどこかほろ苦いように微笑んだ。

「晩酌は欠かさなかった。株式会社SHIRAKAWA companyを経営していたときは…過去の栄光はもろくも崩れ、運が悪かったのか、いやきっとわたしのせいだろう」

 倒産したのち責任をとって去った白河は家族からも逃げた。家族をだいじにしていたから逃げざるをえなかった。

「それは?」

 キャップをかぶり直して、ボロボロの財布から一枚の写真をとりだした。

「家族写真を撮ったときのだ」

 身なりがきちっとしてみすぼらしさなど微塵も感じさせない。

 奥さんの箕季みき(現在45歳)。

 息子の弘太ひろた(現在20歳)。

 娘のあず(現在17歳)。

 と紹介した。家族から逃げだしたから奥さんと離婚はしていないというが、このままだとどうなるかわからない。

 せめてけじめはつけるべきだと俺は言った。

「残された者たちに罪はないと思いますよ」

「そうだな、若いきみにそんなことを指摘されるとは、もはや終わりだ…」

「そうじゃないですよ。俺だってそんな立派なことをいえる立場ではないです。仕事もうまくいかず、なにがやりたいのかみつからない。彼女と暮らしていても叱られてばかり…、田舎の両親からの監視役として彼女はいつも報告しているみたいだし、不自由ですよ」

「謝罪して償うことで過ちは許されるだろうか」

 自問自答している白河だった。

「出来心も態度ひとつの改心から許されるかもしれない。もしかしたら捜しているかもしれない」

 壮絶な過ちを起こしていることがわかったように目頭をおさえていた。

 俺も脳裏にちらちらと浮かんだ。今こうして幸せでいるのはすべて後ろ盾があるからだ。

 美桜に支えられ、家族から見守られている。両家族が結束している。だから俺は宙ぶらりん状態だとしても地獄へ落下せずにすんでいる。しかもこうして自由に活動している。

 わかっている。いつまでも続けられる仕事なんてない。なにか些細なことが引き金となって環境や暮らしが一変する。だから時期を見定めるだけは本人にゆだねられている。

「そろそろ帰りませんか、家族のもとへ?」俺は言った。

「えっ…」元社長は顔をあげた。どこか弱りきった顔をしていた。

「このまま逃げていても家族は不幸のままだ。けして未来があるとは思えない。あなたの家族の行く末について道をしっかりと歩ませる話し合いは不可欠だと思います」

 白河は巨人キャップを目深にかぶって顔を沈めた。

「そのとおりですね…」

 涙が頬を走った。

 俺はそのまま黙った。

 二人の心は強い絆で結ばれようとしていた。

 

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