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ミステリー

スクープはいとも簡単に15

   

 火災が連続して都内でおきていた。今回で五件目、異様なことであると疑念がよぎった。

 快場だけは火災は放火であると真相を掴んだ。そして、その犯人は意外な人物であった。

 しかし、その犯人は快場を陥れようと根回しをしていた。もしばれたときに自分ではなく快場に捜査の目がむくように仕組んでいた。

 さらに快場は自分へ容疑が向くかもしれない、そのまえに手を打った。
 

 そして報道部の命運まであやうくなる──

 

 五件目の世田谷の悲惨な火災が二日経っても鎮火しないことを伝えていた。昼間の青い空に世田谷方面の空はくすみがかった灰色の煙が浮遊しているのを見ては悲しみと恐怖がひろがっていた。

 記者らもテレビでその光景を観ている。浅草付近には影響はないが不安は募るばかりだった。いつこの地域も連続放火魔の餌食になるかわかったものではない。

 俺は午前中あるところに出向いて協力を仰いでいた。見渡す報道部員たちに一瞥しながらここで解明しなければならない事実を伝えることになる。

「みなさん、ちょっといいですか?」全員が俺に振りむいた。鳳来も若輩者の挙手に眼をむけてくれた。

「どうした?」

「はい、いまご覧になっている放火についてですが、犯人がわかりました」

 一斉にざわめいた。若輩者になにがわかるというのか、黙れ、という声もとんでいた。

 向井田は睨みつけていた。罵り屋が口を閉ざしている。よほど嫌われているからもはや言葉もないのだろう。しかし、そうではない。彼の態度を視野にいれて反応を捉えていたが影を潜めていた。

 これから向井田の息の根を止めるために謎解きの幕があがるというのに、おまえの味方は誰一人ここにはいない。

 いち早く現場にいたのは向井田だった。放火魔が誰か、俺は気づいた。

「向井田さん、あなたはなんでいつも放火がある現場の野次馬を撮影しているんですか?」

 犯人がわかったと前置きした。そのため放火をしているのは向井田だと全員の脳裏に連想させた。

「おやおや、まさか俺を疑っているのか?」

「そうとしか思えない。野次馬は現場を見るという傾向がある。が、この写真には同じ人物は一人としていない。だから連続放火魔ではない」

「なら、俺じゃないだろ、バカかおまえは!」向井田は罵った。

「この写真を撮影した人物以外は…」俺は真顔で詰めた。

「なに?」

「要するに写真に写っていないが、撮影した人物はいつも同一人物だった。それが向井田さん、あんただっていっているんだ」

「そうか、現場の画像をみせることで同一人物ではないと証言させる。それで消防員の人と話していた」

“いびり屋”岡原の言葉は意外と新中野での放火取材のとき、現場状況を記憶していたことに驚いた。

「そうです。俺たちが取材で急行していたことをあなたは知らなかった。前の放火の三件についてもあなたは消防員の人に頼まれるわけでもなく写真を撮って現場にどんな人物がいたかを説明した。自分は報道関係者であることをアピールすることで放火魔である犯人から除外されていた。駆けつけたばかりの記者だと思わせることができたのも、消防の人たちも取材班というのは都内のいたるところで徘徊しているようなものだと認識している。だから野次馬の一般人のなかに犯人がいると消防員の人たちに植えつけた。自然な誘導をあなたは可能にさせた」

 向井田は反論せずきつく睨みつけていた。

「向井田の手口は運転しながら運転席側のドアを少し開き、火がついた煙草をアスファルトに落とす。火種は撒いた。あとは自然の猛威が人工物を焦がしていくだけ、これが俺の推理です」

 唖然となっていたのは報道部員たちだった。まさか快場がここまで頭がキレる者だとは誰も思っていなかった。

「念には念を…、あなたが疑われる節がないとは言い切れない。だから身代わりを用意した。その疑いの目をむけさせるために用意された人物…、それが、俺だ。俺に罪をかぶらせる狙いで、俺が取材で出向いた場所を後日選んでいた」

 古美山がパソコンをいじっていた。

「ほんとうだ、わたしやほかの人たちもいるけど、放火現場となった世田谷を含めたこれまでの五件の場所すべてに快場くんだけが行っている──」

 全員が向井田に向き直った。疑いは濃くなっていった。

「だったら快場、おまえがやったんじゃないか」

 向井田がやっと追い詰められたことを自覚してか、反論してきた。

「ふん、小癪な真似を…俺は煙草を吸わないんだよ。知っているでしょ、無駄な作意だったな」

 憮然としているのが気になる。向井田はまだ白旗をあげていない。

「向井田、ほんとうなのか?」見山が険しい顔でたずねていた。信じられない、そんな色も混じっていた。

 最悪な男は、どんなときでも態度に出る。「ちっ」舌打ちをした。見山から見放される充分な態度だった。

 すべてはスクープのために、いとも簡単に世間を恐怖に震わせる。そして期待を望む者もいる。燃えさかる火炎は人間の邪心を熱く滾らせる。

 向井田はやり過ぎた。いつものように開き直りスクープネタを撮影していた。既成事実を完遂させるこの男の顔は炎の揺らめきに翻弄される愚者の使い。けして天命くだっての神の意志ではない。思わぬ犠牲に向井田は落胆する。

 消防車が必死に鎮火をしている。救急車が何十台も行き来している。その夜、赤いランプと警戒音は鳴り響いていた。

「相次いで世田谷区内で火災が起きております。これまでに報告された死傷者は、死者20名、負傷者60名にのぼり…」

 報道部は静まり返っていた。やけにテレビの音量が耳に入ってきた。それは凄惨な事実を伝えていた。人為的な手によってこれだけの被害をもたらせたというのであれば極刑に値する。

 向井田は、ふん、と鼻で撥ね飛ばす。

「知っているか? 警察はまだ犯人の特定まではいたっていない。でも可能性があるのはあなただと思っている。俺は証拠をみつけた──」

「どこにあるってんだ?」虚勢にしか聞こえない向井田の抗い。

「警察は防犯カメラの解析をいそいでいるようです。火の手があがるあの時間帯、あの場所を通った車を一台一台検証しているようです。煙草のフィルター部分にはくわえた唾液のDNAが検出された。それが男性であることがわかった」

 鑑識が出した答えだった。

 

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