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ミステリー

スクープはいとも簡単に16

   

 ついに向井田を排除した。快場は一矢報いたのだ。これでナンバーワンの記者としての椅子を空けて同列になると快場は喜悦しながら、帰路についた。

 だが美桜はそんな相手にも救済の手を伸ばすようなことをいう。それは今、公園で快場がある男性を救済しようとしているのと同じであると気づかせた。

 快場はたしかにと納得していた。

 そしてある方法を使って白河の救済の道を開くため、得意のSNSで呼びかける。

 そして大きなうねりが動き出す。

 消えたはずの、あの男まで再起させて──

 

 自宅に帰ると、美桜の手料理がテーブルに並んでいた。丸まるふとったハンバーグ、外はかりっと焼き目がありナイフを切りこむと中から肉汁がジュワッとあふれてくる。こんなにもうまくできるものかと感心した。

「輝紀、何かごきげんのようだけど、どうしたの?」美桜が浮かれている俺に言った。

「いや、べつに…でも、ごきげんかな、ふふーん」

「おかしい。仕事のほうも順調みたいだしよかったね。最近はあの罵り屋さんとどうなの?」

「ああ、あれは翼が折れた。今じゃドブネズミのように這いつくばっているよ」

 美桜は失笑して黙った。

「なんだよ…」俺は美桜の顔に気づいた。

「地に落ちた鳥も必死にまた羽ばたこうとするものよ…」

 美桜は向井田の肩を持ったと俺はそのとき感じた。一度テレビに映ったあのむかつく男に惚れた?

「なんか気になるのか?」

「ぜんっぜん、だって輝紀のこと罵るようなひとでしょ、きらい」

「なら、どうしてかばうようなことを?」

「かばってない。たとえば輝紀と勝負して負けたとするでしょ、それでそのひとの人生を奪うことはしちゃダメ。こんどは輝紀が罵り屋になっちゃう」

 たしかにそうかもしれない。恨みは次の恨みを買うだけだ。

「あなたは今、救おうとしているひとがいる、そうでしょ?」

 美桜の真意がわかった。勝負に負けた人を身を削ぐような思いで体当たり取材をしている。今なにができるかどうか苦悩していた。

 巨人の帽子をかぶっている白河が脳裏に浮かんだ。

「そうだったな、はき違えてた…」

 くすっと美桜は笑った。
 
 

 俺はいつも取材をしている公園に来ていた。

 浮浪者は公園で様々な物を貰っていた。どういうわけか、近くにあるレストランや食堂の賄いに近い廃棄処分の材料を余すことなく貰っては、それを調理して周囲に分け与えていた。

「いつのまに…」

 人望があるようだ。どんな見てくれでも親しみをこめれば互いに響くのだろう。

「さすがは白河さんだ…」俺はいつもの密着取材をはじめていた。

 スマートフォンを専用の三脚に固定し撮影をはじめた。そこに映された画面のなかの白河を含め浮浪者たちは助け合うように暮らしていた。

「だが、これでいいのか?」

 スマートフォンのなかの画面に映る白河に訴えたかけていた。

 家族を捜す。いい方法を考慮していた。

 俺にできることを…そう考えていたがなにも思い浮かぶことはない。

 局に戻り、普段の仕事に精をだしていた。何かやっていればヒントがみつかる。それはスクープのネタの糸口として考えていた。

「快場くん、わたしの取材のアシスタントして」

 米盛はパソコンでインターネットを使っていろいろ検索していた。

 俺も同じ作業を手伝わされた。何か情報はないだろうか。白河を捜していないだろうか。彼はある意味、さ迷い人の家出人だ。家族に気にかけられる存在であるなら、警察への捜索願いやソーシャルネットサービスを使用して投稿が拡散されていると思う。

 こっそり検索してみた。

 発信元は白河の家族だとしたらたどっていけば家族のひとりとコンタクトがとれる。俺はそう考えていた。

 期待に反して一通も掲示板に投稿されていない。白河のまぼろしの家族は、まさに願望で作り上げた捜索、いや創作であると思わずにはいられなくなる。

 俺は練りに練った案をツイッターに投稿した。内容は簡潔にし動画をアップして世間にネット上で呼びかけた。

 テレビやインターネットの影響力はすごい。どこで誰が見ているかわからない。その情報を流してあげればかならず関係者の目にとまる。マスコミに関わる者としてその効果は絶大であることは知っている。俺もそれで働くきっかけになった。

『この男性に見おぼえのある方はいますか? このご時世に仕事を失った元社長。家族がいるがみずぼらしい自身と暮らすのは惨めになる。そのため、いまは自称地域環境美化係の仕事をしている。そんな彼をみてこう呼ぶ。自由人だ。彼の今の願望が…それは家族に会いたい。そして社会復帰し平社員でもいいから仕事に就いて温かい家庭で暮らしたい、と取材をした私に訴えた』

 俺のことだが、なにひとつできていないことに情けなくなっていた。捏造スクープのほうがまだ簡単じゃないかと思わせる。

『そこでみなさんにご協力を。彼が救われるため、社会復帰するために支援の募金をお願いします』

 ツイッターに投稿した内容だ。本文冒頭のみ投稿し、俺のブログへアクセスできるアドレスがある。そして上記の本文を掲載を閲覧できて、なお且つ募金もできるようになっている。

 善意の心は真っ白だ。もしいくらかでも集まった募金をふところに入れるようなことはしない。これは公けにしていることだから問題はない。

 起死回生は、これしかない。

 

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