幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理【サンライズ出雲・Life Game】2

   

 寝台特急列車サンライズ出雲行きに御影は乗りこんだ。ビールとつまみを買って探偵としての職務を逸脱し旅行気分に浸っていた。

 探偵社からの粋な計らいに感謝をしつつ、いつのまにか熟睡してしまった。

 唐突に眼が覚めたのは4時ごろだった。

 突如悲鳴がこだました。

 まさか寝台列車の中でドラマのような傷害事件が起きるとは御影ですら予測していなかった。
 
 

 果たしてこの移動中の密室列車に犯人がいるのか──。

 御影探偵の推理がはじまる。
 

 

 揺れる列車のなかで御影は深い眠りから目覚めた。

 寝台の上で御影はおもいっきりあくびと背筋と腕を上にあげて背伸びした。それは猫のような気の抜けた瞬間でもある。

 窓の外をみると相変わらず真っ暗闇だった。午前4時22分を腕時計は差していた。おもわず針が一本だけになってしまったような錯覚に陥った。

「はぁ、あれから5時間ちかく寝ていたのか…」

 真っ黒の窓をみる。サンライズに乗るまえに売店で缶ビールとツマミを買った。3本買った。2本目の半分ほど飲んで目蓋をとじた。乗車してからこの部屋で二時間ほど酒盛りをしていたがそのまま眠ってしまったようだ。

 窓は横幅80センチくらい。高さ70センチの上部が湾曲している。真っ黒なスクリーンみたく、まるで映画がはじまる前の暗転に似ていた。

 御影は腕時計をみつめ物思いに耽る孤独な時間がやってきた。ここからの時間は闇が深い。それでもこの車窓のスクリーンを観続ける。

 部屋の空間すべてがベッドのようで狭苦しいがかろうじて全身が伸ばせる。縮こまるようなことはない。天井は低いが背伸びができる。そのくらいのスペースは確保できることに満足感がある。

 ここは秘密基地のような雰囲気があり童心を思い出させる。ビールではなくラムネやサイダーにしたら完全に少年にもどっていただろう。

 前面窓ガラスで外を一望できるのは醍醐味ではある。

 都会から離れたことで夜景をみるのには闇が濃く星々のきらめきも線のように流れていた。絶景とはかけ離れているのが残念だが、けだるくなっているいまの御影にはちょうどいい孤立した世界がここにはある。

 このくらいの狭さが頭の思考ボックスとなり、よけいなことを考えずに休暇としてはもってこいのシチュエーションだった。

「こんな粋な計らいを頂けるなんてありがたい最高だ──」

 目をこすり寝ぼけた顔を起こしながらちらちらと星をみつけては感謝を言葉にしていた。

 B寝台「ソロ」6300円の格安寝台の1人用個室で日頃の疲れを包みこむように労ってくれた。

 探偵業はそれだけ酷使するものであると身にしみる。

「シングルデラックスはもっといいんだろうな。ちらっと見たが…」

 横になりながら一つ唸り声を喉で鳴らしながらもこれはこれで快適だとおもうように自らを暗示にかけた。

「氷室探偵ありがとうございます」

 真っ黒の窓に氷室が浮かびあがり、恩師に感謝をおくった。
 
 

 氷室探偵事務所で探偵をはじめてから二年と五ヶ月ほどが経つ。もうすっかり一人前になったと自信過剰に自惚れていた。

 ペット探しもお手の物。浮気調査も慎重にこなす。板ばさみになることなく対話で解決を促せるだけの仲裁力を身につけた。

 御影と輪都のコンビはそれなりにまとまっていた。

「あいつも明日から俺のいない探偵社でそれなりに探偵ができるのか見物だな」

 にやりと自分が映る黒い窓ガラスが鏡となって映った。意地悪い顔になっていた。

 探偵の心得といえばこれまで幾度となく輪都に聞かせていた。

 探偵はひっそりと秘密裏に他者にきづかれてはならない。忍びのように颯爽と動き陰を主張しない。依頼実行中は私情を挟まない。依頼人が納得するところまで仕事をこなす。ひたすら根気よくこなす。ターゲットとなる人を追尾したり見張ったりする。ペットを探すために衣服が汚れることもある。それ(探偵)とわからない装いと振る舞いが重要だ。
 いつのまにか暮らしのすべてが探偵として染まる。

 それが探偵としてのスペックとなる。

 これまでの教えはアルバイトとして探偵助手に事務員をこなすことに従事していた輪都。

 御影は探偵としてそんな輪都が足手まといとおもっていた。輪都は輪都で探偵助手という役目をどうでもいいと手をぬいていた。いやいやサポートをしていたところもある。

 役割を果たすことを拒んだこともあった。

 腰掛けの一年間という社会勉強を含めて事務のアルバイトとして入社をした。そんな輪都が就職活動に失敗し、いまでは氷室探偵社で御影と変わらない立場で仕事をしている。

 まったく人生とは不思議なことだ。ゲームのようにサイコロで出た目のマスを進む。止まったところのミッションをクリアしないとバツが与えられる。まるで人生ゲームをしているようなものだ。

 同情はできる。でもそれも運命だ。輪都は自らの現状を受け入れ、以前とはちがって素直に探偵助手をまっとうしていた。

 輪都のサポートなしでも今回の依頼は十分にこなせる。そもそも輪都が一人でも依頼をこなせるように御影が遠ざけた。

 背をむけるときがきた。そういう羽ばたく時期というものがある。それが輪都にとっては今というわけだ。

 御影がこうして一人で遠方の依頼に赴くのもはじめてかもしれない。暖簾分けした氷室探偵事務所の関西支部が西日本エリアを担当しているが依頼人の希望で東京の探偵社を希望していた。

 となれば御影が踊りでるというものだ。名探偵氷室はいつものように多忙な調査に身を動かしていた。

 ゲームのサポートをするという雑務のような依頼は御影が担当になっていた。そんな役割分担はないが、名探偵氷室の功績を信じて、頼ってくる一般や業界の人間が連日相談にくる。

 すべてを氷室ができるわけがない。そこで右腕と自称する御影が器用されるのだ。

 相変わらず窓ガラスをみつめていた。自分一人だけが映っていることに不思議と何かを感じはじめていた。

「もの足りない──」

 おもわずでた言葉だった。寂しさ空虚感、やはり隣には輪都がいるのがあたりまえになっていた。

 黒い窓の鏡は姿見となり隣ががっぽりと空いているのを見て顔が虚ろになっていた。

 缶ビールをくちに運び出窓の空いたスペースに缶を置いた。静かな夜が過ぎようとしている。このまま明日になるのだろう。

 御影は少し表情を失い深いため息を吐いていた。

 

-ミステリー
-, ,

シリーズリンク

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

おすすめ作品