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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~レッドラット編 第7話「セリオ・フィズライト」

   

 
「君達、この先の町に行くんでしょ?」
「何で知ってんだよ!」
「さっき、ちょっと聞こえちゃったんだよねぇ」

 男は私とシアンの周りを歩きながら、くすくすと笑った。

「ねえ、よかったら俺も連れて行ってくれない?」

 ぴたりと私の前で立ち止まり、男はそう口にした。私は目を見開いて、シアンと視線を合わせる。

 (一体何のつもりでこの提案を――――?)

「というか、俺が案内してあげるよ。一緒に行こ」
「案内? あなた、レッドラットに詳しいのっ?」
「うん!」

 ここで内部の人間と関わりが持てれば、確実に今後の動きを明確に出来る。私が今するべきことは、自身の安全を確保することでも、この男を疑うことでもない。レッドラットでの戦いを終わらせることだ。その為なら、どんな力でも得たい。
 私が心を決めたことを悟ったのか、シアンは少し慌てた様子で私の肩を掴んだ。

「待てよ。俺は信用出来ねぇぞ、こんなふざけた野郎……」
「ねえ。俺を信じるかどうかはどうでもいいんだけど、あの町に入るにはコツがいるって知ってた?」
「……いいえ」

 つまり彼は、『自分を信じるかどうかはどうでもいいが、自分を連れて行かなくては町には入れないぞ』と言いたいのか。

「そのコツとやらをここで私達に教えてくれる気はないのですね?」
「そうだね」
「……なるほど」
「そうかよ。なら、力ずくで――――!」
「シアンッ!」
「だってさぁ、君達だって無闇に攻撃されて怪我したくないんじゃない? あそこは今でも戦争が続いているんだよ? 簡単に入れると思う方が間違いじゃないの? それにさぁ――――……」

 革の手袋で覆われた男の手が私に向かってぐんっと伸びる。だが、私の肌には一切触れることなく、その指先は眼前でぴたりと止まった。

「お嬢さんは町でやることがあるんでしょ?」
「……うん」
「それまでは死ぬわけにはいかない」
「……うん」
「そして、俺の提案に対する答えはもう決まっている」
「……うん」

 私の答えを聞くと、男は優しく微笑んだ。その笑みを見て、嫌と言うほど思い知る。

 彼はきっと、あの瞬間、私を殺そうと思えばそう出来たのだ。だが、そうはしなかった。その理由はただ一つ。

「わかりました。一緒に行きましょう。案内をお願いします」
「ふふ、そうこなくっちゃ」

 男の手が引っ込んだその瞬間、シアンが歯を食い縛った音がした。

「……今度、こいつに妙な真似したら潰す」

 シアンの低い声が頭上から響いた。彼は今にも長刀を振るいそうな瞳をして、男の飄々とした姿を見つめている。だが、その殺気の籠る声を聞いても、男は一切表情を崩すことなく笑ってみせた。

「そんなことしないよ。お嬢さんは俺の恩人さんだもん」
「少しでも変な行動してみろ。この話はなしだからな」
それを決めるのは君じゃないだろ

 男の声色が変わった。少女のような声が一瞬で壊れて、背筋が凍るような瞬間が駆け巡る。シアンを見つめ返すその渦巻くような瞳を見つめていると、底知れない闇に沈んでいくようで、私は唾を飲み込んだ。

 簡単に壊れる。簡単に崩れる。
 この男の本性が垣間見えたようだった。

 一瞬恐怖を覚えた私にゆっくりと片手を差し出して、男は再び少女のような声で笑った。

「俺はセリオ・フィズライト。セリオって呼んでね、お嬢さん」
「……エリザです。よろしく」

 握り返したその手は、真っ白な顔からは想像も出来ないほど温かくて、おかしいほど人間だった。
 
 

≪つづく≫

 

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