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風刺 / ユーモア

AIロボ世界の就活(前)

   

二十一世紀半ば、スキルのない、あるいはないと思われている人々は完全に行き詰まっていた。思想や国境の壁を超えて人工知能とAIがもの凄い勢いで仕事を奪っていったからだ。

鹿谷が住む町でも、長年やってきた工場にAIを導入されたことで、鹿谷たち単純労働型の労働者はクビを切られてしまった。

やむなく鹿谷は、高校の頃から口八丁で有名だった仲間の星野の工場に向かったが、そこで待っていたのはいかにもデキそうなサイボーグ的労働者だった。

 

「社長、これは一体どういうことなんですか。僕らはずっと頑張ってきたでしょう。皆、一人も欠けることなく」
 今年で四十歳になる鹿谷進は、社長に対して詰め寄っていた。ここまで感情を表に出すのは、二十年ぶりのことである。
 もっとも当時は仕事が理不尽に多くてキれたが、今回は事情が違う。
「す、すまんっ。しかし、どうしてもこいつを導入しないと、金を貸してくれそうにないんだよ。事業計画ってやつを作らなくちゃいけないから」
 社長も相当弱気になっている。
 しかし、そんな彼の態度とは裏腹に、ソーラー駆動式ロボットは元気良く、食品の仕分け作業に取り組んでいる。
 その速度と精度において、鹿谷がもっとも自信を持っていた仕事である。
「社長、ウチの会社には常務や専務なんていないんですから、僕らに伝えるのが筋でしょう。どうして、いきなり決めちゃったんですか。他に相談すればまだ、手は……」
「決断をしなければ即座に、ウチの若い者を常務と専務としてねじ込むって言ってきたんだ。しかも報酬は二人で千八百万。どうしてもそれはできなかった。すぐに金に詰まってしまう」
「我々の方がもっと早いですよっ。貰えなきゃ、すぐに金が底をついちゃいますよ。分かっていますよね。それとも何ですか、社長は僕らに死ね、とでも言いたいんですか」
 収まり切れずに声を荒らげた鹿谷を、他の従業員が必死で食い止め社長から引き離した。
 もっとも、皆気持ちの上では鹿谷に同情している。誰にとっても仕事がなくなるのは痛いし、簡単に「次」を探すのも難しいのである。
「本当に、もう、何と言っていいか、まだ分からないが、とにかく、謝ることしかできない。今後我が杉浦工業では、大々的なリストラを実行していく、ことに、なる。この頭をいくら下げても、結果は、もう……」
 ひと呼吸置いた杉浦社長は、ぼつぼつと、言葉を切り出すような形にした。
 何十年と油が染み付いてきた、彼の小さな体が震えていた。深々と頭を下げているのは、鹿谷たちに対する配慮はもちろん、顔を見られたくない配慮でもあろう。
「……分かりました。しかし、賞与金と未払い分の給料は貰っていきますからね。でないと、生活ができないもので。お世話になりました」
 その、殊勝と言うには丁重過ぎるほどの態度を目の当たりにして、幾分毒が抜けた鹿谷は皆を促すかのようにくるりと踵を返して、通い慣れた工場を後にした。
 しかし、定められた時間より三時間早い退社だが、着古したシャツやズボンを身に着けた男たちの表情には笑顔はない。
 三々五々、言葉少なに気の合う仲間と、飯屋や居酒屋に向かうぐらいしか、発散できる手段もなかったが、他の連中からすれば、同僚と愚痴れるだけまだマシだったのかも知れない。

 

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AIロボ世代の就活 第1話第2話

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