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風刺 / ユーモア

札束セイリング

   

「一体、どういうことなのか。じっくり説明して貰いますよ。どこに行こうってんです」
「まあ、すぐに分かるよ。そうピリピリすんなって。気配を読まれたら色々面倒だぞ。最近俺らの仲間でもちょっと噂でな、できりゃあ人数が少ない方がいい。お前を誘ったのは、ま、お詫びのようなもんでな」
 まるで少年のようにワクワクした表情を見せる柳下とともに、深谷は人気のない茂みのすぐ近くで停まった車内で、じっと待たなければならなかった。
 お菓子はおろか、お茶の一杯も用意していない柳下のKYぶりに内心ムカつきつつ一時間ほどを消化した深谷は、突然目の前がぱっと明るくなったのを目撃してのけぞった。
「ヤバい、誰かが来たか」
「落ち着けって。そういうこっちゃねえんだって。さあ、降りるか」
 余裕たっぷりに促す柳下にしたがって、深谷も車を降り、光の出元に向かった。
 打ち捨てられたような雑木林の中にぽつんとあったのは、まだ真新しい自販機だった。
 いくつもの自販機が立ち並んでいる光景は異様だが、輪をかけて奇妙だったのは、その販売する物品だった。
 ディスプレイのサンプルが正しければ、その売り物は「現金」だった。
 一枚だけの札がサンプルの欄もあれば、札束や、ブロックになっているサンプルも見える。
「な、何だ、こりゃあ……」
「へへへ、これが俺たちが見つけた桃源郷ってやつよ。人生の問題をいっぺんに解決することができるわけだな。ほら、値段札を見てみろよ」
 いち早く金を投入しようとしている柳下に言われて、深谷は今一度自販機を見て目を丸くした。
 一万円札一枚を売るのに「八千円」、十万円の欄には「八万円」の値が付いている。どうやら、二割引で売られているようだ。
「こんなことって……」
 深谷は恐る恐る手持ちの八千円を自販機に投入してボタンを押してみた。
 すると、缶やペットボトルのジュースと同じように、封筒がぽとり、と落ちてくる。
 中には確かに、一万円札であり、偽札という気配もない。念のため、オマケでついてきた携帯用探知機ではかってみるが、まったくチェックは素通りである。
「こ、これは……っ!!」
「声が大きいって。でも、へへ、分かったろ。これで金の問題は無くなる。つまり人生の大部分も何とかなるってわけだ。八十万円で百万円を引き出して、そのうちの八十万円を使ってまた引き出してってやってきゃ、無限に儲かるんだもんな」
 もっとも、無限ってことはないけどな、と、二、三束万札の入った封筒を「回収」したところで柳下は付け足した。
 見ると、彼が張り付いていた自販機には「売切」という表示が点っている。どうやら、ストックがなくなったらしい。
「今日の分は、これで終わりなんですか?」
「そうだな。日によってまちまちだが、大体週に一度ぐらいは補充がある。他にもいくつもあるし、俺らが知らないトコにも置いてあるかも知らねえ。どっちにしても急ぐのが大事だ。他人に嗅ぎつけられたら面倒だし、後から来た奴と揉めることだってあるんだ」
 どうしてこんな魔法のような自販機があるのかは理解できなかったが、深谷も元不良であり、柳下が警戒しているのは納得がいった。
 当然、この話が分別のないワルたちに知れたら面倒なことになるし、自販機ごと奪う連中が現れてもおかしくはない。
 そうなると、この金を動かしている「誰か」は、警戒して別の方法を使うようになるはずだ。
「それで、良かったらお前のトコの検査機で詳しく調べて欲しいんだけどよ。もちろん、金は払う。今や俺は金持ちだからな」
「助かります。そんなら、先輩のお仲間も、もしいたら連れてきて下さいよ。正規料金の最安値でやりますからね」

 

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