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歴史ファンタジー

東京探偵小町 第十二話「あそび歌」 <2>

   

「ほら、タジさん、こういうのよ。きれいでしょう」
 花瓶敷きというものがピンと来なかったらしいサタジットに、時枝が『少女文芸』の別冊付録を開いてみせる。別冊の表紙や挿絵も本誌と同じく蒼馬の手によるもので、十月号の付録の、「楽しい秋冬の手芸」という題字が踊るページには、編み物に精を出す少女の姿が添えられてあった。『少女文芸』の付録が火付け役になったのか、今冬の帝都では、毛糸の手編みが大流行しているのだった。
「さすがは松浦のお嬢さん、こんなに美しい花瓶敷きなら、慈善市で一番最初に売れてしまいそうですね」
「マフラーにしようか花瓶敷きにしようか、みどりさん、ずいぶん悩んでいたのよ」
「編み物は、きっとほかの皆さまが、たくさんお作りになると思いますの。うまくできるといいんですけれど…………」
「あーあー、こんな細けェ仕事、大将にゃア絶対ェ無理だな」
「何よ、わごちゃんったら。失礼ねぇ」
 付録に示されたビーズ編みの図案を横合いからのぞいて、和豪が時枝をからかう。時枝はぷんとむくれながらも、自分は手芸小物ではなく、焼き菓子を作って持って行くつもりだと一同に告げた。
「このあいだの、蜂蜜のビスケットですのね」
「お菓子でもいいかどうか、シスターに聞いてみなくちゃいけないけれど……どうかしらん?」
 席に着き、棒茶ならではの香ばしさを堪能しながら、みどりに意見を求める。隣に座るみどりは、湯呑茶碗を手に取りながら、時枝に賛同を示した。
「素敵な思い付きですわ。とてもおいしいお菓子でしたもの、お母さまやお姉さまと一緒にいらした小さなかたたちが、きっと大喜びなさると思いますの」
「そう? だったら、思い切って十袋……ううん、十一袋作って、あとで蒼馬くんにもひとつ持って行ってあげるわね」
「いらないよ、そんなもの」
 急にそんな提案をされて、蒼馬がそっぽを向く。
 意識しているからそうなるのか、時枝に対してだけは、いまだに反抗的な態度を取り続ける蒼馬である。だが、時枝のほうはすでに慣れっこなのだろう、気にしたふうもなく、話を続けた。
「あら、遠慮しないで。上海の女学校で習った、卵とバターと蜂蜜のたっぷり入ったビスケットなのよ。栄養満点なんだから」
「いらないってば。大体、慈善市なんだから、売ってお金にしなくちゃ意味がないだろ」
「じゃあ、うーんとたくさん作るから、来月の慈善市に買いに来てちょうだい。蒼馬くんの分を取り分けておくわ」
「いくら慈善市だからって、男が女学校なんかに行けるもんか! 大体、忙しくて、そんなヒマなんかないよ」
「んもう、お仕事の息抜きに、ちょっとくらい遊びに来てくれたっていいじゃない。蒼馬くんの北辰館からあたしたちの聖園女学院までなんて、歩いてすぐなんだから」
 二人のやり取りに、みどりや倫太郎が苦笑をこぼす。
 そんななか、黙って茶菓子を食べていたサタジットが、何やら物思わしげなため意をついた。
「どうしたィ、タジ吉。まさか、口に合わねェなんてナマ言いやがるんじゃねェだろうな」
「いいえ。このオカシをたべていたら……タジさんのクニの、おまつりをおもいだしました」
「タジさんの国のおまつり?」
「ええ」

 

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